魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
ベルンハルトからレティシアの帰郷を告げられ、一週間もすれば徐々に雪の舞う日が減ってきた。暖かい日差しに、庭に積もった雪が溶け始める。
顔を覗かせ始めた芝生や、せっかちな植物たちを手入れするヘルムートの姿が窓の外に見えた。
レティシアは未だにリーゼロッテの前に現れては、いくつかのやり取りをして、突然姿を消す。
その様子を受け入れ始めたのは、近く別れが迫っているからか、それともレティシアのこと以上にリーゼロッテの心を重たくさせるものがあるからか。
「リーゼロッテ王女様」
「またいらしたんですか? レティシア様」
「だって、暇なんですもの。ベルンハルトはちっとも相手をしてくれないし」
レティシアの頬が拗ねたように膨れる。
その様子に、リーゼロッテも思わず笑顔をこぼした。
結局ベルンハルトからレティシアを第二夫人にするという話は聞かされていない。
それどころか、最近は邪魔にしている様にも見える。
『世話になっている』と言っていたのはどうなったのだろうか。
邪険に扱っているようにも見えるベルンハルトの態度に、リーゼロッテも困惑していた。
「そしたら、お庭に降りてみますか?」
ふてくされたようなレティシアに、リーゼロッテから提案を持ちかけた。
「私が? 王女様と? 何で……」
(今日もお断りになられるのだわ)
リーゼロッテがレティシアと関わりを持とうと提案をしたのは初めてじゃない。
頻繁に顔を合わせる相手に、ライバルといえども親しみが湧いてしまったのだ。
それでもレティシアがその提案に乗ることはなく、『何で私が!』と文句を言いながら帰っていく。
「ま、まぁ、たまには付き合ってあげてもいいけど」
レティシアのその言葉に驚いたのはリーゼロッテだ。
「えぇ?!」
「え? って何よ。貴女が誘ったんでしょ」
「まさか受けてもらえるとは思ってもいませんでしたので」
「誘っておきながら……気が向いたのよ。今日だけよ」
「わかりました。それでは参りましょう。まだ寒いかもしれませんし、厚着してくださいね」
「厚着って……気候制御すればいいでしょ。まぁ私にはそれも必要ないけど」
「うふふ。それもそうですね。それではわたくしだけ」
「だから、気候制御は?」
「わたくし、魔法が使えませんので」
リーゼロッテの言葉に今度はレティシアが驚かされたようだ。目をまん丸に見開いて、リーゼロッテを見つめた。
「使えないって噂だけじゃなかったのね」
「はい。わたくし、お役に立てないんです」
「役にって……少し魔法が使えたぐらいじゃベルンハルトの役には立たないだろうけど。それにしても、その髪の色で?」
「えぇ。何にも」
「ふーん」
レティシアが考えごとをするように宙を見上げた。
彼女が何を考えているのか、リーゼロッテには何も察することはできず、久しぶりの庭に心を馳せた。
「ヘルムートさん!」
「奥様。と、レティシア様?!」
思いがけない組み合わせの二人に、さすがのヘルムートも驚いた様に声を上げた。
「うふふ。今日はお誘いに乗っていただけたのよ。お庭を見てくるから、そしたらお茶を淹れて下さる?」
「もちろんでございます。奥様、寒くはありませんか?」
「大丈夫。レティシア様、行きましょう」
仲良さげに肩を並べて歩く二人の姿は、ヘルムートだけでなく、ここまで来る間に出会った他の使用人達のことも存分に驚かせた。
「うふふ。ヘルムートさんのあのお顔。本当に驚いていらっしゃったわ」
「楽しそうね」
「えぇ。いつも澄ました顔をされていらっしゃるもの。それなのに……うふふ」
「こんなことぐらいで、そんなに楽しそうにできるなんて」
「レティシア様は楽しくないのですか?」
「楽しく……ないこともないわね。それにしても、貴女変わってるわ。私のこと、嫌じゃないの?」
楽しそうに笑っていたリーゼロッテは、レティシアの言葉に足を止める。
そして、真っ直ぐにレティシアの顔を見つめて口を開いた。
「嫌よ。嫌で嫌で仕方ないわ」
「はっきり言うわね」
「だって、聞かれたんだもの。ちゃんと答えないと失礼でしょう?」
「嫌って言う方が失礼じゃない?」
「嫌じゃないはずがないわ。突然やってきて、ベルンハルト様に馴れ馴れしくして。その上あの図々しい態度」
「言い過ぎ」
「でもね、嫌だけど嫌いじゃないの。レティシア様はベルンハルト様のことを想っていらっしゃるし、ベルンハルト様もレティシア様には心を許していらっしゃる。それなら、わたくしも仲良くさせていただいた方が良いじゃない?」
「そういうこと……」
「レティシア様の裏表のないはっきりした性格は好きよ。わたくしも見習いたいぐらい」
「ふふっ。ふふふっ。貴女やっぱり変わってる。私にそんな風に言うことができるなんて。龍族の中にもいないわ」
リーゼロッテの言葉を受けて、レティシアが笑う。
本当は怖くて怖くて仕方なかった。
ベルンハルトと一緒に魔獣を討伐に行く龍族の長。その強さはリーゼロッテの想像を絶するものだろう。
その相手に嫌いだと告げるなんて、愚かな者のやることだ。
レティシアに見られないように、後ろに組んだ手は震えて、寒いはずのこの季節に似合わない大量の汗が流れる。
それでも、言わずにはいられなかった。
レティシアのせいで疲れ切った心が、自分の口を理性が止めるのを止めた。
それで消されてしまっても構わないと、レティシアに尋ねられた時、つい思ってしまった。
顔を覗かせ始めた芝生や、せっかちな植物たちを手入れするヘルムートの姿が窓の外に見えた。
レティシアは未だにリーゼロッテの前に現れては、いくつかのやり取りをして、突然姿を消す。
その様子を受け入れ始めたのは、近く別れが迫っているからか、それともレティシアのこと以上にリーゼロッテの心を重たくさせるものがあるからか。
「リーゼロッテ王女様」
「またいらしたんですか? レティシア様」
「だって、暇なんですもの。ベルンハルトはちっとも相手をしてくれないし」
レティシアの頬が拗ねたように膨れる。
その様子に、リーゼロッテも思わず笑顔をこぼした。
結局ベルンハルトからレティシアを第二夫人にするという話は聞かされていない。
それどころか、最近は邪魔にしている様にも見える。
『世話になっている』と言っていたのはどうなったのだろうか。
邪険に扱っているようにも見えるベルンハルトの態度に、リーゼロッテも困惑していた。
「そしたら、お庭に降りてみますか?」
ふてくされたようなレティシアに、リーゼロッテから提案を持ちかけた。
「私が? 王女様と? 何で……」
(今日もお断りになられるのだわ)
リーゼロッテがレティシアと関わりを持とうと提案をしたのは初めてじゃない。
頻繁に顔を合わせる相手に、ライバルといえども親しみが湧いてしまったのだ。
それでもレティシアがその提案に乗ることはなく、『何で私が!』と文句を言いながら帰っていく。
「ま、まぁ、たまには付き合ってあげてもいいけど」
レティシアのその言葉に驚いたのはリーゼロッテだ。
「えぇ?!」
「え? って何よ。貴女が誘ったんでしょ」
「まさか受けてもらえるとは思ってもいませんでしたので」
「誘っておきながら……気が向いたのよ。今日だけよ」
「わかりました。それでは参りましょう。まだ寒いかもしれませんし、厚着してくださいね」
「厚着って……気候制御すればいいでしょ。まぁ私にはそれも必要ないけど」
「うふふ。それもそうですね。それではわたくしだけ」
「だから、気候制御は?」
「わたくし、魔法が使えませんので」
リーゼロッテの言葉に今度はレティシアが驚かされたようだ。目をまん丸に見開いて、リーゼロッテを見つめた。
「使えないって噂だけじゃなかったのね」
「はい。わたくし、お役に立てないんです」
「役にって……少し魔法が使えたぐらいじゃベルンハルトの役には立たないだろうけど。それにしても、その髪の色で?」
「えぇ。何にも」
「ふーん」
レティシアが考えごとをするように宙を見上げた。
彼女が何を考えているのか、リーゼロッテには何も察することはできず、久しぶりの庭に心を馳せた。
「ヘルムートさん!」
「奥様。と、レティシア様?!」
思いがけない組み合わせの二人に、さすがのヘルムートも驚いた様に声を上げた。
「うふふ。今日はお誘いに乗っていただけたのよ。お庭を見てくるから、そしたらお茶を淹れて下さる?」
「もちろんでございます。奥様、寒くはありませんか?」
「大丈夫。レティシア様、行きましょう」
仲良さげに肩を並べて歩く二人の姿は、ヘルムートだけでなく、ここまで来る間に出会った他の使用人達のことも存分に驚かせた。
「うふふ。ヘルムートさんのあのお顔。本当に驚いていらっしゃったわ」
「楽しそうね」
「えぇ。いつも澄ました顔をされていらっしゃるもの。それなのに……うふふ」
「こんなことぐらいで、そんなに楽しそうにできるなんて」
「レティシア様は楽しくないのですか?」
「楽しく……ないこともないわね。それにしても、貴女変わってるわ。私のこと、嫌じゃないの?」
楽しそうに笑っていたリーゼロッテは、レティシアの言葉に足を止める。
そして、真っ直ぐにレティシアの顔を見つめて口を開いた。
「嫌よ。嫌で嫌で仕方ないわ」
「はっきり言うわね」
「だって、聞かれたんだもの。ちゃんと答えないと失礼でしょう?」
「嫌って言う方が失礼じゃない?」
「嫌じゃないはずがないわ。突然やってきて、ベルンハルト様に馴れ馴れしくして。その上あの図々しい態度」
「言い過ぎ」
「でもね、嫌だけど嫌いじゃないの。レティシア様はベルンハルト様のことを想っていらっしゃるし、ベルンハルト様もレティシア様には心を許していらっしゃる。それなら、わたくしも仲良くさせていただいた方が良いじゃない?」
「そういうこと……」
「レティシア様の裏表のないはっきりした性格は好きよ。わたくしも見習いたいぐらい」
「ふふっ。ふふふっ。貴女やっぱり変わってる。私にそんな風に言うことができるなんて。龍族の中にもいないわ」
リーゼロッテの言葉を受けて、レティシアが笑う。
本当は怖くて怖くて仕方なかった。
ベルンハルトと一緒に魔獣を討伐に行く龍族の長。その強さはリーゼロッテの想像を絶するものだろう。
その相手に嫌いだと告げるなんて、愚かな者のやることだ。
レティシアに見られないように、後ろに組んだ手は震えて、寒いはずのこの季節に似合わない大量の汗が流れる。
それでも、言わずにはいられなかった。
レティシアのせいで疲れ切った心が、自分の口を理性が止めるのを止めた。
それで消されてしまっても構わないと、レティシアに尋ねられた時、つい思ってしまった。