魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「お庭、広いのね」
「お母様の趣味なの。リーゼは昔からお好きだったわね」
「えぇ。これだけ大きいと手入れも大変そう」
ヘルムートと共に来ているからか、ついそんなことが気にかかる。
「そうかもしれないわ。庭師が三人いても、たまにお母様に注意されているもの」
「三人……」
思わず後ろに控えるヘルムートの顔を横目で見れば、ヘルムートはほんの少し眉を上げて得意げに微笑んだ。
ロイスナーの城の方が狭いとはいえ、ヘルムート一人で十分手入れが行き届いているというのは、どういうことだろうか。
ディースブルク伯爵夫人の求めるものが高いのか、ヘルムートの能力が高いのか。
「そうなの。夏は水やりだけで大変みたい」
「こ、これだけの広さだものね」
魔法で水を出すにも一人では足りないということか。
「さ、こちらの客室を使って。ディナーまでそれほど時間はないのだけど、くつろいでいらして」
「アマーリエ。ありがとう」
「こちらこそ。まさか会いに来ていただけるなんて思ってもいなかったわ。それでは、また後で」
アマーリエに案内された客室はこの城の中でも上質な部屋だろう。ただの友人を招くには大袈裟なぐらいの気遣いに、恐縮してしまう。
「奥様、荷物はこれで全てです。先程使用人用の客室も案内いただけましたので、私はそちらに控えております。イレーネがこちらにはおりますので、問題ないと思いますが、何かありましたらお呼びください」
「ヘルムートさん、ありがとうございました」
「奥様、さすがにこちらでは、それはおやめ下さい」
「あら。やっぱりだめかしら?」
「使用人をそのように呼ばれるのは、貴族として褒められたものではありませんから」
「わかりました。それではこちらにいる間だけ」
「ロイスナーに戻られた後もそのままで構いませんから」
「いいえ。ヘルムートさんにはお友達になっていただかなくてはいけませんもの」
「まだそのようなことを仰っていたのですか」
リーゼロッテの言葉を呆れたような顔で聞き流すと、ヘルムートはそのまま部屋を後にした。
ロイスナーの城で繰り広げられるようなヘルムートとの会話は、リーゼロッテの緊張を解きほぐす。初めてのディースの城へ、ヘルムートと共に来られて良かったと、心からベルンハルトへ感謝した。
アマーリエとのディナーは終始和やかに進んだ。他家への招待にリーゼロッテが不慣れであることを知ってるアマーリエが、リーゼロッテの為に整えた場は、貴族らしい形式や格式を重んじるものとは違い、気のおけない友人と共に楽しむことのできる食事であった。
まるで学生の頃に戻ったかの様な雰囲気にリーゼロッテが困惑していれば、「少しずつ貴族らしいものにしていけばいいの」と、その頃と変わらぬ顔でアマーリエが笑った。
明日は庭でお茶会を、との誘いをもらって客室へと戻れば、イレーネが就寝の用意を整えてくれ、リーゼロッテはその身をベッドへと横たえた。
アマーリエの心尽くしのもてなしと、イレーネやヘルムートによる気遣い。その二つがリーゼロッテの心を包み込む。
いつもなら寂しいはずの独り寝も、今夜だけはその寂しさから解放されたようだった。
「良い天気で良かったわ。せっかくお庭にお誘いしたのに、雨なんて降ったら残念だもの」
翌日は春めいた暖かい陽気に包まれて、伯爵夫人ご自慢の庭に出るのに恵まれた天気であった。
そこで開催されるのは二人きりのティーパーティ。周りに控える侍女も限りなく少なくし、二人だけの秘密の時間。他の場所では言いづらいこともあるだろうからと、お互いのために設けた時間。
「風も少なくて、暖かくて……あら?」
「どうされたの?」
リーゼロッテの目に映ったのは青い顔をして庭を歩く使用人の姿。三人いるとは言っていたが、その誰もが普通よりも顔色が悪い。
「あの方達、大丈夫かしら?」
「多分、水やりが終わったのね。魔力を使いすぎたんだわ」
「あんな顔色になってまで?!」
「一番魔力の多い者が今日はお休みだから。お母様もいないんだし、手を抜けば良いのに」
「大丈夫なの?」
「この後は仕事も任せてないし、しばらく休めるはず。気にさせてしまってごめんなさい」
「いいえ。お休みが取れるならいいの。でも、あんな顔色になるなんて、魔力石を使ったりはしないの?」
普段からいくつもの魔力石を持ち歩いているヘルムートは、きっと庭の手入れの時にも使っていることだろう。そうでなければ一人でなんて、やり切れないはずだ。
「ま、魔力石なんて! あんな高価なもの使えるわけないわ」
「……それもそうね」
アマーリエの驚いた顔に、王都と同様にディース領においても魔力石が貴重なものだと実感する。
隣の領地であるディースであっても、高価なものだと言われる魔力石。
そんな魔力石を城中で使ってまでも、使用人を雇うことを躊躇しなければいけないのだろうか。.
ベルンハルトが人を寄せ付けたくないのか。
本当に雇う余裕がないのか。
はたまた、その両方か。
(まだ、わたくしの知らないことばかりね)
リーゼロッテは、アマーリエに気づかれぬ様、そっとため息をついた。
「お母様の趣味なの。リーゼは昔からお好きだったわね」
「えぇ。これだけ大きいと手入れも大変そう」
ヘルムートと共に来ているからか、ついそんなことが気にかかる。
「そうかもしれないわ。庭師が三人いても、たまにお母様に注意されているもの」
「三人……」
思わず後ろに控えるヘルムートの顔を横目で見れば、ヘルムートはほんの少し眉を上げて得意げに微笑んだ。
ロイスナーの城の方が狭いとはいえ、ヘルムート一人で十分手入れが行き届いているというのは、どういうことだろうか。
ディースブルク伯爵夫人の求めるものが高いのか、ヘルムートの能力が高いのか。
「そうなの。夏は水やりだけで大変みたい」
「こ、これだけの広さだものね」
魔法で水を出すにも一人では足りないということか。
「さ、こちらの客室を使って。ディナーまでそれほど時間はないのだけど、くつろいでいらして」
「アマーリエ。ありがとう」
「こちらこそ。まさか会いに来ていただけるなんて思ってもいなかったわ。それでは、また後で」
アマーリエに案内された客室はこの城の中でも上質な部屋だろう。ただの友人を招くには大袈裟なぐらいの気遣いに、恐縮してしまう。
「奥様、荷物はこれで全てです。先程使用人用の客室も案内いただけましたので、私はそちらに控えております。イレーネがこちらにはおりますので、問題ないと思いますが、何かありましたらお呼びください」
「ヘルムートさん、ありがとうございました」
「奥様、さすがにこちらでは、それはおやめ下さい」
「あら。やっぱりだめかしら?」
「使用人をそのように呼ばれるのは、貴族として褒められたものではありませんから」
「わかりました。それではこちらにいる間だけ」
「ロイスナーに戻られた後もそのままで構いませんから」
「いいえ。ヘルムートさんにはお友達になっていただかなくてはいけませんもの」
「まだそのようなことを仰っていたのですか」
リーゼロッテの言葉を呆れたような顔で聞き流すと、ヘルムートはそのまま部屋を後にした。
ロイスナーの城で繰り広げられるようなヘルムートとの会話は、リーゼロッテの緊張を解きほぐす。初めてのディースの城へ、ヘルムートと共に来られて良かったと、心からベルンハルトへ感謝した。
アマーリエとのディナーは終始和やかに進んだ。他家への招待にリーゼロッテが不慣れであることを知ってるアマーリエが、リーゼロッテの為に整えた場は、貴族らしい形式や格式を重んじるものとは違い、気のおけない友人と共に楽しむことのできる食事であった。
まるで学生の頃に戻ったかの様な雰囲気にリーゼロッテが困惑していれば、「少しずつ貴族らしいものにしていけばいいの」と、その頃と変わらぬ顔でアマーリエが笑った。
明日は庭でお茶会を、との誘いをもらって客室へと戻れば、イレーネが就寝の用意を整えてくれ、リーゼロッテはその身をベッドへと横たえた。
アマーリエの心尽くしのもてなしと、イレーネやヘルムートによる気遣い。その二つがリーゼロッテの心を包み込む。
いつもなら寂しいはずの独り寝も、今夜だけはその寂しさから解放されたようだった。
「良い天気で良かったわ。せっかくお庭にお誘いしたのに、雨なんて降ったら残念だもの」
翌日は春めいた暖かい陽気に包まれて、伯爵夫人ご自慢の庭に出るのに恵まれた天気であった。
そこで開催されるのは二人きりのティーパーティ。周りに控える侍女も限りなく少なくし、二人だけの秘密の時間。他の場所では言いづらいこともあるだろうからと、お互いのために設けた時間。
「風も少なくて、暖かくて……あら?」
「どうされたの?」
リーゼロッテの目に映ったのは青い顔をして庭を歩く使用人の姿。三人いるとは言っていたが、その誰もが普通よりも顔色が悪い。
「あの方達、大丈夫かしら?」
「多分、水やりが終わったのね。魔力を使いすぎたんだわ」
「あんな顔色になってまで?!」
「一番魔力の多い者が今日はお休みだから。お母様もいないんだし、手を抜けば良いのに」
「大丈夫なの?」
「この後は仕事も任せてないし、しばらく休めるはず。気にさせてしまってごめんなさい」
「いいえ。お休みが取れるならいいの。でも、あんな顔色になるなんて、魔力石を使ったりはしないの?」
普段からいくつもの魔力石を持ち歩いているヘルムートは、きっと庭の手入れの時にも使っていることだろう。そうでなければ一人でなんて、やり切れないはずだ。
「ま、魔力石なんて! あんな高価なもの使えるわけないわ」
「……それもそうね」
アマーリエの驚いた顔に、王都と同様にディース領においても魔力石が貴重なものだと実感する。
隣の領地であるディースであっても、高価なものだと言われる魔力石。
そんな魔力石を城中で使ってまでも、使用人を雇うことを躊躇しなければいけないのだろうか。.
ベルンハルトが人を寄せ付けたくないのか。
本当に雇う余裕がないのか。
はたまた、その両方か。
(まだ、わたくしの知らないことばかりね)
リーゼロッテは、アマーリエに気づかれぬ様、そっとため息をついた。