魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「ところで、ロイエンタール伯爵との暮らしはいかが?」
「いかがって?」
「大切に、していただいてる?」
侍女を減らしてまで聞きたいことはこれだったのだろう。
アマーリエの顔にも、らしくない笑顔が浮かぶ。
「ふふ。そうね。この時期に、こちらへ来ることができてるのだから、大切にしていただいてるわ」
「そうよね。まさか、ロイエンタール伯爵から招待を受けるだなんて思ってもみなかったの。お父様もかなり驚いていたわ。それなのに、まさかお断りなさるなんて……本当に失礼なことをしてしまって」
「ベルンハルト様は何も仰ってなかったわ。無理を通したのはこちらよね。準備、大変だったでしょう?」
招待を受けなかった代わりに、リーゼロッテを招待をする様に、もしかしたら脅したのではないかと、正直言うと心配していたのだ。
「わたくしは大丈夫。リーゼが来てくれて、本当に嬉しいの。これからもどんどんお父様に言って欲しいぐらいよ。ロイエンタール伯爵にそうお伝えしておいて」
「あら。ディースブルク伯爵も大変なことね」
「わたくしがロイスナーに行くことを認めてくれれば良いのに。そうしないんだから、仕方ないわね」
アマーリエの顔には、領地から出してもらえない不満がありありと浮かび上がる。
お互いに不満を言い合って、気持ちを落ち着けて。国立学院在学中には何度も開催したお茶会。
(こんな時間、本当に久しぶりだわ)
リーゼロッテはこの幸せな時間を噛み締めていた。
「アマーリエ様。失礼いたします」
二人のお茶会はその後も大いに盛り上がり、思った以上に時間が経ってしまったと、リーゼロッテが傾き始める太陽を気にし始めたところだった。
ディースブルク家の執事が、アマーリエに声をかけた。
「何かしら? 今来客中なのよ。後にしてって伝えたはずよ」
「申し訳ありません。ただ、ローマン様がお見えになっておりまして」
「ローマン? なんで……」
「アマーリエ様! 大切なご友人がお見えになっていると聞きました。婚約者として、是非私にもご挨拶させてください」
アマーリエと執事の話を遮るように、見知らぬ男性の声が聞こえた。
声の方に顔を向けると、アマーリエよりも少し歳上の男性が、大袈裟な身振りで近づいてくるのが見える。
「ローマン。今日は大切なお客様がお見えになっているんです。お会いできないと申し上げたはずです」
「えぇ。ですから私が会いに来たのです。大切なお客様とは? どなたでしょうか?」
ローマンと呼ばれた男性の目線が、リーゼロッテを捕らえた。
「こ、これはこれは。かの有名なリーゼロッテ王女様ではありませんか。はじめまして、アマーリエ様の婚約者のローマンと申します」
ローマンの口調は丁寧だが、その顔に声色にリーゼロッテを小馬鹿にしているのがわかる。
こんな様子の人間と会うのは慣れたもので、リーゼロッテは作りものの笑顔を貼り付けた。
「はじめましてローマン様。リーゼロッテ・ロイエンタールと申します」
「そういえば、ロイエンタール伯爵とご結婚なされたんでしたね」
リーゼロッテの口から『ロイエンタール』の言葉が出てくるやいなや、ローマンの顔はさらに嘲笑を浮かべ、絡みつくような視線がリーゼロッテにまとわりつく。
仮面の伯爵に嫁いだ魔力のない王女。侮られる理由は多分にあって、そんな事態に今更何も思うことはないのだけど。
(この感じ。久しぶりに味わったわ)
ロイスナーでは何ヶ月もの間味わうことのなかった侮蔑的な態度。このような扱われ方が当たり前だった日々が、遥か彼方遠い日のことに思う。
「ローマン。わたくしの交友関係に思うところがおありの様ね」
「いえ。そのようなことは、ございませんよ」
アマーリエの言葉にも、ローマンはニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべており、自分の立場に自信を持っているのがわかる。
「もう、何も聞きたくありません。その顔も見たくありませんので、出て行ってくださいませ」
「アマーリエ様、そう仰いましても……」
アマーリエの言葉は怒りを露わにしているのだが、その態度でいられる自信はどこから来るのだろうか。
婚約者と言えども、あんまりな態度に、リーゼロッテはどこか冷えた頭で二人の様子を伺っていた。
アマーリエが怒ってくれるのは自分のため。そんなことは痛いくらいにわかるけれど、ローマンの言動には慣れきっていて今更何も思えない。
そんな環境で育ってきた自分が、こうして他領でお茶会に参加していることに、その差に、改めて心が熱くなる。
「すぐに出て行って下さい! もう二度と、わたくしの前に現れないで!」
リーゼロッテとは反対に、アマーリエの怒りはおさまることを知らず、ついに言葉が怒鳴り声へと変わる。
アマーリエの見たこともない態度に、リーゼロッテは目を見張った。
「アマーリエ、わたくしは大丈夫です」
「リーゼがよくても、わたくしはよくありません! 早く出て行って!」
執事に促されるようにローマンが庭から姿を消したの見届けると、アマーリエがリーゼロッテの前で頭を下げた。
「リーゼ、本当にごめんなさい。まさかあの様な態度を取る人だなんて知らず。嫌な思いをさせてしまって」
「アマーリエ、わたくしは平気です。あんなもの、慣れたものですから。それよりも、あのように追い出してしまって良かったの?」
「慣れたなんて……そのようなこと言わないで。ローマンのことなら平気です。お父様に言って、婚約は破棄していただきますから」
「ええ?! そんなこと、やめてちょうだい!」
自分のせいでアマーリエがそんな決断をしてしまうことが信じられなかった。
アマーリエの瞳は真剣そのもので、決して冗談ではないことがわかる。
リーゼロッテはおろおろと、気持ちをざわつかせていた。
「いかがって?」
「大切に、していただいてる?」
侍女を減らしてまで聞きたいことはこれだったのだろう。
アマーリエの顔にも、らしくない笑顔が浮かぶ。
「ふふ。そうね。この時期に、こちらへ来ることができてるのだから、大切にしていただいてるわ」
「そうよね。まさか、ロイエンタール伯爵から招待を受けるだなんて思ってもみなかったの。お父様もかなり驚いていたわ。それなのに、まさかお断りなさるなんて……本当に失礼なことをしてしまって」
「ベルンハルト様は何も仰ってなかったわ。無理を通したのはこちらよね。準備、大変だったでしょう?」
招待を受けなかった代わりに、リーゼロッテを招待をする様に、もしかしたら脅したのではないかと、正直言うと心配していたのだ。
「わたくしは大丈夫。リーゼが来てくれて、本当に嬉しいの。これからもどんどんお父様に言って欲しいぐらいよ。ロイエンタール伯爵にそうお伝えしておいて」
「あら。ディースブルク伯爵も大変なことね」
「わたくしがロイスナーに行くことを認めてくれれば良いのに。そうしないんだから、仕方ないわね」
アマーリエの顔には、領地から出してもらえない不満がありありと浮かび上がる。
お互いに不満を言い合って、気持ちを落ち着けて。国立学院在学中には何度も開催したお茶会。
(こんな時間、本当に久しぶりだわ)
リーゼロッテはこの幸せな時間を噛み締めていた。
「アマーリエ様。失礼いたします」
二人のお茶会はその後も大いに盛り上がり、思った以上に時間が経ってしまったと、リーゼロッテが傾き始める太陽を気にし始めたところだった。
ディースブルク家の執事が、アマーリエに声をかけた。
「何かしら? 今来客中なのよ。後にしてって伝えたはずよ」
「申し訳ありません。ただ、ローマン様がお見えになっておりまして」
「ローマン? なんで……」
「アマーリエ様! 大切なご友人がお見えになっていると聞きました。婚約者として、是非私にもご挨拶させてください」
アマーリエと執事の話を遮るように、見知らぬ男性の声が聞こえた。
声の方に顔を向けると、アマーリエよりも少し歳上の男性が、大袈裟な身振りで近づいてくるのが見える。
「ローマン。今日は大切なお客様がお見えになっているんです。お会いできないと申し上げたはずです」
「えぇ。ですから私が会いに来たのです。大切なお客様とは? どなたでしょうか?」
ローマンと呼ばれた男性の目線が、リーゼロッテを捕らえた。
「こ、これはこれは。かの有名なリーゼロッテ王女様ではありませんか。はじめまして、アマーリエ様の婚約者のローマンと申します」
ローマンの口調は丁寧だが、その顔に声色にリーゼロッテを小馬鹿にしているのがわかる。
こんな様子の人間と会うのは慣れたもので、リーゼロッテは作りものの笑顔を貼り付けた。
「はじめましてローマン様。リーゼロッテ・ロイエンタールと申します」
「そういえば、ロイエンタール伯爵とご結婚なされたんでしたね」
リーゼロッテの口から『ロイエンタール』の言葉が出てくるやいなや、ローマンの顔はさらに嘲笑を浮かべ、絡みつくような視線がリーゼロッテにまとわりつく。
仮面の伯爵に嫁いだ魔力のない王女。侮られる理由は多分にあって、そんな事態に今更何も思うことはないのだけど。
(この感じ。久しぶりに味わったわ)
ロイスナーでは何ヶ月もの間味わうことのなかった侮蔑的な態度。このような扱われ方が当たり前だった日々が、遥か彼方遠い日のことに思う。
「ローマン。わたくしの交友関係に思うところがおありの様ね」
「いえ。そのようなことは、ございませんよ」
アマーリエの言葉にも、ローマンはニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべており、自分の立場に自信を持っているのがわかる。
「もう、何も聞きたくありません。その顔も見たくありませんので、出て行ってくださいませ」
「アマーリエ様、そう仰いましても……」
アマーリエの言葉は怒りを露わにしているのだが、その態度でいられる自信はどこから来るのだろうか。
婚約者と言えども、あんまりな態度に、リーゼロッテはどこか冷えた頭で二人の様子を伺っていた。
アマーリエが怒ってくれるのは自分のため。そんなことは痛いくらいにわかるけれど、ローマンの言動には慣れきっていて今更何も思えない。
そんな環境で育ってきた自分が、こうして他領でお茶会に参加していることに、その差に、改めて心が熱くなる。
「すぐに出て行って下さい! もう二度と、わたくしの前に現れないで!」
リーゼロッテとは反対に、アマーリエの怒りはおさまることを知らず、ついに言葉が怒鳴り声へと変わる。
アマーリエの見たこともない態度に、リーゼロッテは目を見張った。
「アマーリエ、わたくしは大丈夫です」
「リーゼがよくても、わたくしはよくありません! 早く出て行って!」
執事に促されるようにローマンが庭から姿を消したの見届けると、アマーリエがリーゼロッテの前で頭を下げた。
「リーゼ、本当にごめんなさい。まさかあの様な態度を取る人だなんて知らず。嫌な思いをさせてしまって」
「アマーリエ、わたくしは平気です。あんなもの、慣れたものですから。それよりも、あのように追い出してしまって良かったの?」
「慣れたなんて……そのようなこと言わないで。ローマンのことなら平気です。お父様に言って、婚約は破棄していただきますから」
「ええ?! そんなこと、やめてちょうだい!」
自分のせいでアマーリエがそんな決断をしてしまうことが信じられなかった。
アマーリエの瞳は真剣そのもので、決して冗談ではないことがわかる。
リーゼロッテはおろおろと、気持ちをざわつかせていた。