魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
「ローマンでもう三人目なの」ローマンが去っていった後、アマーリエは眉を下げながらそう話した。
ディースブルク伯爵に気に入られ、婚約者として紹介を受けた相手の数。
最初は良いものの、伯爵に気に入られていることで、徐々に態度が尊大になっていくのだという。
「お父様は見る目がないのよ」
アマーリエが心底呆れた様にため息をついた。
「わたくしに婚約者をって焦っているの。それでどんどん目が曇っていくんだわ。自由に他領に行かせてくれれば、素敵な方とお会いできるかもしれないのに、それも許してくれなくて」
「伯爵はアマーリエのことを心配されているのよ」
「まさか。心配してるのは領地の魔力だけよ」
アマーリエは自らの見事な金髪を指先で弄びながら、目を伏せた。
リーゼロッテとは違い、その色に見合った大きな魔力。
領地と領地の間で発生する魔獣から領地を守るための結界。それを維持するのには一定量の魔力がいるという。
領地を守るのは当然伯爵家の役目で、アマーリエの魔力に期待がかけられているのも仕方ない。
「それでも、あんなに簡単に婚約をやめてしまって、良かったの?」
「構わないわ。それより、嫌な思いをさせてしまってごめんなさい」
「わたくしなら平気よ。だから、わたくしのせいで婚約をやめるなんて、なさらないで」
「リーゼに対してあんな態度をとったんだもの。あのような方と結婚するだなんて、考えたくもないわ」
ローマンの態度にアマーリエが憤慨しているのはわかるが、その原因が自分であることに、リーゼロッテの気持ちが落ち着かない。
リーゼロッテのことをあの様に軽視する貴族は少なくない。どころか、ほとんどがそうだ。アマーリエの様に、偏見なく接してくれる人の方が珍しい。
それなのに、こんな風に怒ってくれるだなんて。父親であるディースブルク伯爵が決めた相手を追い出してしまって、そこに確執が生まれたらどうしようと、実の父親であるバルタザールにすら疎まれている自分の様になってしまってはと、リーゼロッテの心に不安が広がる。
「わたくしのことなんて気にしないで。今ならまだ間に合うから」
「リーゼ……」
リーゼロッテの言葉と、不安を隠せない表情に、アマーリエは軽くため息を吐きながら、リーゼロッテの手を握った。
「リーゼ、わたくしは貴女のことを誰よりもお慕いしているわ。リーゼがいなければ、わたくしはこの領地から一歩も出ることなく、人生を終えていたと思うの」
「そんな……」
「あら、本当のことよ。国立学院へ通うことだって、リーゼが、王女様が入学するって聞きつけたお父様が決めたことなの。同じ学院に通うことで、もしかしたら王族と関係を作れるとでも思ったのでしょうね」
「そ、そしたらわたくしではお役に立てなかったわね」
アマーリエとは間違いなく関係を作ることができたが、王族との接点をと考えたディースブルク伯爵の思惑は外れてしまっただろう。
魔力もなく、国王一家から疎まれたリーゼロッテでは、王族との関係を深めることはできない。
「いいえ。リーゼはわたくしに領地の外を見せてくれたもの。それだけで充分。他に何を望むと言うの」
アマーリエがリーゼロッテに向けた笑顔は、紛れもなく本心で、いつだってリーゼロッテの心を救い上げてくれる友人のことを、リーゼロッテだって想わない時はない。
「わたくしも、アマーリエのことをお慕いしているわ」
少し照れくさく感じながらも、そう伝えるだけで精一杯だった。
「また、お会いしましょう。今度は何とかしてロイスナーに行ってみせるわ」庭でのお茶会の翌日、アマーリエと笑顔で別れの挨拶を交わし、リーゼロッテのディース領訪問は終わりを告げた。
王城での春の挨拶も終わったことだろう。その内ベルンハルトもロイスナーへと戻ってくるはずだ。
(春の挨拶は、無事に終わったのかしら)
リーゼロッテがいないことで、バルタザールから何か言われてはいないだろうか。周りの貴族から変な視線を向けられてはいないだろうか。
ディース領への訪問はリーゼロッテにとって幸せ過ぎる時間であり、それを与えてくれたベルンハルトが嫌な思いをしていては、せっかくの幸せな気持ちも火が消えてしまう。
「おかえりなさいませ。お待ちしておりました」
リーゼロッテがロイスナーに戻ってきてから数日後、王城からベルンハルトも戻った。
ロイスナーの城の中庭で出迎えたベルンハルトはやはりいつもの様に仮面の下に涼しい笑顔を浮かべており、王城でのことを垣間見ることもできない。
「ディース領の訪問は、楽しんで来られただろうか?」
「えぇ。ありがとうございました」
「後で詳しく話を聞きたい。部屋を訪ねても構わないか?」
「もちろんです。お待ちしております」
ベルンハルトがリーゼロッテの私室を訪ねることを約束し、そのまま城の中へと足を進めていく。
少し前まで冷たい風が吹き抜けるだけだったロイスナーにも、春のおとずれを告げる様に、暖かな風がリーゼロッテの頬を撫でた。
ディースブルク伯爵に気に入られ、婚約者として紹介を受けた相手の数。
最初は良いものの、伯爵に気に入られていることで、徐々に態度が尊大になっていくのだという。
「お父様は見る目がないのよ」
アマーリエが心底呆れた様にため息をついた。
「わたくしに婚約者をって焦っているの。それでどんどん目が曇っていくんだわ。自由に他領に行かせてくれれば、素敵な方とお会いできるかもしれないのに、それも許してくれなくて」
「伯爵はアマーリエのことを心配されているのよ」
「まさか。心配してるのは領地の魔力だけよ」
アマーリエは自らの見事な金髪を指先で弄びながら、目を伏せた。
リーゼロッテとは違い、その色に見合った大きな魔力。
領地と領地の間で発生する魔獣から領地を守るための結界。それを維持するのには一定量の魔力がいるという。
領地を守るのは当然伯爵家の役目で、アマーリエの魔力に期待がかけられているのも仕方ない。
「それでも、あんなに簡単に婚約をやめてしまって、良かったの?」
「構わないわ。それより、嫌な思いをさせてしまってごめんなさい」
「わたくしなら平気よ。だから、わたくしのせいで婚約をやめるなんて、なさらないで」
「リーゼに対してあんな態度をとったんだもの。あのような方と結婚するだなんて、考えたくもないわ」
ローマンの態度にアマーリエが憤慨しているのはわかるが、その原因が自分であることに、リーゼロッテの気持ちが落ち着かない。
リーゼロッテのことをあの様に軽視する貴族は少なくない。どころか、ほとんどがそうだ。アマーリエの様に、偏見なく接してくれる人の方が珍しい。
それなのに、こんな風に怒ってくれるだなんて。父親であるディースブルク伯爵が決めた相手を追い出してしまって、そこに確執が生まれたらどうしようと、実の父親であるバルタザールにすら疎まれている自分の様になってしまってはと、リーゼロッテの心に不安が広がる。
「わたくしのことなんて気にしないで。今ならまだ間に合うから」
「リーゼ……」
リーゼロッテの言葉と、不安を隠せない表情に、アマーリエは軽くため息を吐きながら、リーゼロッテの手を握った。
「リーゼ、わたくしは貴女のことを誰よりもお慕いしているわ。リーゼがいなければ、わたくしはこの領地から一歩も出ることなく、人生を終えていたと思うの」
「そんな……」
「あら、本当のことよ。国立学院へ通うことだって、リーゼが、王女様が入学するって聞きつけたお父様が決めたことなの。同じ学院に通うことで、もしかしたら王族と関係を作れるとでも思ったのでしょうね」
「そ、そしたらわたくしではお役に立てなかったわね」
アマーリエとは間違いなく関係を作ることができたが、王族との接点をと考えたディースブルク伯爵の思惑は外れてしまっただろう。
魔力もなく、国王一家から疎まれたリーゼロッテでは、王族との関係を深めることはできない。
「いいえ。リーゼはわたくしに領地の外を見せてくれたもの。それだけで充分。他に何を望むと言うの」
アマーリエがリーゼロッテに向けた笑顔は、紛れもなく本心で、いつだってリーゼロッテの心を救い上げてくれる友人のことを、リーゼロッテだって想わない時はない。
「わたくしも、アマーリエのことをお慕いしているわ」
少し照れくさく感じながらも、そう伝えるだけで精一杯だった。
「また、お会いしましょう。今度は何とかしてロイスナーに行ってみせるわ」庭でのお茶会の翌日、アマーリエと笑顔で別れの挨拶を交わし、リーゼロッテのディース領訪問は終わりを告げた。
王城での春の挨拶も終わったことだろう。その内ベルンハルトもロイスナーへと戻ってくるはずだ。
(春の挨拶は、無事に終わったのかしら)
リーゼロッテがいないことで、バルタザールから何か言われてはいないだろうか。周りの貴族から変な視線を向けられてはいないだろうか。
ディース領への訪問はリーゼロッテにとって幸せ過ぎる時間であり、それを与えてくれたベルンハルトが嫌な思いをしていては、せっかくの幸せな気持ちも火が消えてしまう。
「おかえりなさいませ。お待ちしておりました」
リーゼロッテがロイスナーに戻ってきてから数日後、王城からベルンハルトも戻った。
ロイスナーの城の中庭で出迎えたベルンハルトはやはりいつもの様に仮面の下に涼しい笑顔を浮かべており、王城でのことを垣間見ることもできない。
「ディース領の訪問は、楽しんで来られただろうか?」
「えぇ。ありがとうございました」
「後で詳しく話を聞きたい。部屋を訪ねても構わないか?」
「もちろんです。お待ちしております」
ベルンハルトがリーゼロッテの私室を訪ねることを約束し、そのまま城の中へと足を進めていく。
少し前まで冷たい風が吹き抜けるだけだったロイスナーにも、春のおとずれを告げる様に、暖かな風がリーゼロッテの頬を撫でた。