今日は我慢しない。
 幼い記憶の母さんはいつも元気で楽しくて、怒らせると怖かったけど、愛に溢れてて

 こんな虚な目はしてなかった

 こんな青白い顔じゃなかった

 こんな貼り付けた笑顔、しなかった


 ……この空っぽの部屋にこの人を置いて行ったら

 きっとこの人は、死んでしまう。


 考えても考えても、どうしたらいいかわからない。

 わかるのは、この人を残していけないということと

 ただの学生でしかない自分では、何をしでかすかわからないこの人から三条を守り切れる自信がない、ということ


 そして、徐々に理解する。

 三条の元へ行くのは難しいということを。



 はー……と、吐いた息が震えたのは悔しさと未練。



「離して、母さん。電話する」


 そう言って、母さんが離れるのを確認してからスマホを持ち上げ、トーク画面から三条のプロフィール画面に飛ぶ。

 それから通話ボタンを押した。

 耳にあてると、しばらく呼び出し音が鳴ってから三条の声がする。



『……もしもし』



 それだけで、喉の奥がぐっと詰まって泣きそうになった。



 〝好きだ〟



 いつからか、三条の声を聞くたび溢れるようになった。
 


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