今日は我慢しない。
 ただただめんどくさかった。

 三条は自分一人でなんとかすると言って聞かないし、自分の中で熱くなる衝動が煩わしくて。

 とにかく早く事態をおさめようとした直後、はじめて三条の涙を見た。

 それまでの三条のイメージが思い切り覆った。

 きっと今までたくさんの悪意を浴びてきて、必死で虚勢を張ってたんだ。生きるために。

 愛おしかった。

 いっぱいいっぱいになって子供みたいに泣く三条が愛おしくて仕方なくて、なんとか力になりたいって思った。

 以来、三条への気持ちがどんどん膨れ上がっていって、三条が俺にだけ発情するってわかった時なんか、気持ちがあふれてわけわかんなくなって

 もう引き返せないくらい三条を好きになってるんだって気づいた。

 誰にも渡したくなかった。

 一生自分のものにしてしまいたかった。

 もうほかのことなんかどうでもよくなるくらいに。

 ……でも、そうやって冷静さを失ったせいで、母さんに漬け込まれてしまった。


 俺はベッドに体を沈めて目を閉じた。


 今度、家も引っ越すことになった。

 そうなるともう本格的に三条とは会えなくなるだろうな。



「……浴衣、見たかったな」



 そう口の中で小さく呟いたとき。




 ピンポーン。


 家の呼び鈴が鳴った。

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