今日は我慢しない。
「三条のお父さん、かっこよかったな」

「うん」


 小さいころからずっと、お父さんはいないものとして生きてきた。

 でも、心に蓋をしていただけで、心のどこかでお父さんがいたらよかったのにって思っていたのかもしれない。

 なんとはなしに見上げた雨上がりの夜空はやたら清々しく、不思議なくらいに空気が綺麗に感じる。

 形容しがたい気持ちになって、それを伝えたくなって隣を歩く佐柳を見た。


 ……あれ?


「なんか遠くない?」

「そう?」


 遠い。明らかに。

 さっきお父さんと会う前はすぐ真横を歩いてたのに、今は人2人分くらい離れてる。


「気のせいだよ」

「……」


 なんだか突き放されてるようで寂しくなって、佐柳の手を引いた。

 すると佐柳はビクッとして私と目を合わせて、すぐにパッと目を逸らした。


「なに?佐柳」

「いや……」

「なにか思ってることあるなら言って」


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