「さあ海美ちゃん!どっちの道でしょう」




分かれ道の前で、お兄さんは言った。


……え、ここって。


よく似ている。
夢の中で見た、あの分かれ道に。

私はあの時、右に行った。


案内人さんは左に行くと言っていた。





「ひだり……?」

「お、せーかい。
ちなみに右にずっと進むと海があるんだ」

「えっ」

「今度行こ」





……うみ。

ねぇ、あれは私の夢だけど、
夢じゃないよね。

案内人さん……。





「左に、いるんですか」

「うん。
アイツはきっと、海美ちゃんを待ってるよ」





実感が湧かない。

あの案内人さんに現実世界で、
逢いに行くなんて。

心臓がバクバク鳴り出す。


会ったらまず、なんて言えばいいんだろう。
どんな顔したらいいんだろう。

伝えたいことはたくさんあるけど、
案内人さんのお墓を前にしたら多分、
何も言えなくなっちゃう。


でも、
ずっと止まってるわけにもいかないので、
私はお兄さんと左の道に進んだ。





「着いた」





お兄さんがそう言ったので、
私は顔を上げる。

っ、あぁ……。




「2人で話したいこともあるだろうし、
俺は海の方行ってくるから、
終わったら来て」

「あ、ありがとうございます」




案内人さんのお墓と、
周りにはたくさんの桜の木。

案内人さんの髪色に、よく似た桜。






「──桜くん。……っ、あり、がとぅ……」





私は案内人さんのお墓の前で
崩れ落ちるように座り込み、

泣いてしまった。


やっと、言えた。
やっと、あなたの名前を呼べた。
やっと……。


私を守ってくれて、
私に生きる希望を与えてくれて、
私に道を教えてくれて、ありがとう。




ずっと、ずっと、この恩は忘れない。

桜くんのことは忘れない。


きっとずっと……私の心の中心にいるのは、
桜くんだ。



本当は、今すぐ想いを伝えたいけど、
きっと貴方は困ってしまうだろうから、
この気持ちが溢れてしまうまでは、
私の心の中に留めておくね。







あなたは変な人だから、
気づいてないでしょう。

でもね、あなたは素敵な人。
優しい人。カッコイイ人。

私にとって、光みたいな。
この桜みたいに、気づいたら散って
消えてしまいそうな、尊くて大切で、
綺麗な存在。

ずっと見ていたいの。そばにいたいの。



私は涙を拭い、桜くんを見てから、
桜を見あげた。






「桜、綺麗だね……」













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