彼女は渡さない~冷徹弁護士の愛の包囲網
「先生、その言い方は卑怯ですよ!私自身の経験を説明しただけで関係ありません。それはそれ、これはこれですよ!」

 すると、池田さんも眼鏡のふちを持ち上げて先生のことを正面から見据えて話し出した。

「先生は恋愛のことは本当にポンコツですね。今大変な水世さんに、条件を理由にプロポーズしたんですか?きちんと気持ちを伝えたんですか?水世さんもこのポンコツ先生の本当の気持ちも聞かずに、ここへ名前書いちゃだめです」

 池田さんは私の署名欄を指でたたいた。二人とも私のことを心配してくれている。嬉しかった。

「佐々木さん、池田さん……大丈夫です。その、一応、先生の気持ちも……確認しました……」

 ふたりは驚いたように私を見た。先生は恥ずかしそうに目を反らした。

「あっはは……!おかしい、水世ちゃん。先生ったら、しょうがないわね。先生が水世ちゃんを大分前から好きなことはわかってましたよ。早く言わないから面倒なことになるんです」

「ああ良かった。先生、ちゃんと言ったんですね。えらいですよ。いつになっても進展しないから正直心配してたんです。よかったね、水世さん」

 上から目線で池田さんが先生ににやにやしながら言った。先生は不満げに顔を赤くした。

「ポンコツとはなんだ、失礼な奴だな……とにかく二人はすぐにこれを書いてくれ。今日出しに行く」

「もちろんですよ。すぐ書きましょう、池田君」

「おめでとうございます!!先生、水世さん、どうぞお幸せに!」

 二人は迷うことなく順番にさっさと婚姻届へ署名してしまった。

「明日は水世の実家へ行ってくる。彼女のおじいさんが借金返済で畑を売る事態になっているらしい。早い方がいいので、対処してくる」

「わかりました」

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