募る想いは果てしなく
 それは口に出さずとも、早坂には伝わっていたようだ。だから私を責めなかったのだと思う。
 その当人は今、空になった缶ビールをゴミ袋にまとめている。
 これでお開きにするつもりらしい。

「早坂、もう飲まないの?」

 終電の時間は既に過ぎている。
 タクシーで帰るつもりなのかもしれない。

「七瀬に付き合ってたら、帰る前に酔うわ」
「いいじゃん、酔っても。泊まってけば?」
「……は」

 何気なく発した提案に彼の動きが止まる。
 私を凝視しているその顔は、信じられない、と言いたげな表情が読み取れて。

「そんなに驚くこと?」
「いや本気で言ってんの?」
「なにが?」
「泊まってけ、とか」
「うん」
「……危機感とかねえのかよ」

 深い溜め息をつく早坂は呆れ顔だ。
 彼が何を言いたいのか、それくらいはわかるけど。

「危機感って。早坂は私に何かする気なの?」
「……しないけど」
「でしょ?」

 カラカラと軽快に笑い飛ばす。
 早坂とどうこうなる展開なんて想像ができない。
 根強い仲間意識がある上に、それなりに長い期間、友人関係を築いてきたんだ。
 その相手にどう危機感を抱けというのか。
 早坂の発言を一笑し、残り僅かな量のビールを飲み干した。
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