募る想いは果てしなく
 ネームプレートを首に掛けて事務所に入る。
 そこには既に早坂の姿があった。
 PCに向き合ったまま視線だけをこちらに向ける。
 よっ、と軽く片手を挙げれば、早坂も同じように応えてくれた。

「2度目ましてだね」
「ん。朝早く起こしちまって悪いな」
「あんなに急いで帰らなくてもよかったのに。朝ご飯くらい用意できたよ?」

 まだ日が昇り切らない時間帯、タクシーでさっさと帰宅してしまった早坂の背中を思い出す。

「マンションに戻りたかったし。着替えとか」
「ああ、そっか」
「あとロッカー室の会話、丸聞こえだったんだけど」
「あら」

 ロッカー室と事務所の距離は近い。
 騒げば耳に入ってしまう。
 私がかなえちゃんをからかった内容まで、早坂には筒抜けだったようで。

「かなえちゃんどうですか。いい子ですよ」
「鈴原はいい女すぎて、俺にはもったいねえわ」

 口元に微かな笑みを浮かべながら、早坂は淡々とキーボードを打ち込んでいる。
 会話内容を気にしている風には見えない。

 少しだけ罪悪感が湧く。
 女性が大半の職場で、唯一の男性社員である早坂が話題のネタにされやすいのは、仕方のない事かもしれないけれど。
 そう割り切っても、本人にとってはいい気分じゃないだろう。
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