募る想いは果てしなく
 私と早坂が驚いて振り向く。
 視線の先には見知ったあの子の姿。
 私達を交互に見やる、その大きな瞳に驚きの色を浮かべて立ち尽くしていた。

「な、七瀬さん……不倫って何……え?」
「……あらま」
「……」

 隣で早坂が頭を抱えてる。
 あの場から逃亡を図ったらしいかなえちゃんに、会話の内容を全部知られてしまったみたいだ。





◇ ◇ ◇



 夜の帳が下りる頃。
 古びた建物の駐車場に、1台の車が停車する。
 早坂が運転する車だ。
 一緒に退勤した後は、飲みに行かなければこうして送り届けてくれる。

 街灯がぼんやりと辺りを照らす。
 そこは私が住む賃貸マンション。
 そして今夜、青木さんがここに来る。
 気が滅入るったらありゃしない。

 私が重いため息をつけば、後部座席からも悩ましげなため息を漏らす人物がひとり。

「七瀬さんに彼氏がいたなんて知らなかった……早坂さんとくっつく気配がないから、なんで? って思ってたらそういうことですか……」

 私のため息とかなえちゃんの気落ちした声が、虚しく交差している車内。まるでお通夜状態だ。
 彼女の中では、私と早坂がくっつく未来予想図が出来上がっていたみたいだけど、私には既に別の恋人がいた、その事実に打ちのめされて落ち込んでいるみたいだった。
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