募る想いは果てしなく
 誰かさえわかれば怖いものはない。
 ズカズカと部屋に入り、電気をつける。
 パッと室内を照らす照明は、暗がりで見えていなかった人物の姿を曝け出した。

「おかえり、遥。お仕事お疲れさま」

 ベッドに背を預け、悠長にスマホをいじっている人物――青木忍さん。
 私の気配に気付いてにっこりと微笑む。
 出会った頃と何も変わってない柔和な笑顔。
 半年前まで私が好きだった人。
 過去形だ。

「電気くらいつけてください」
「怖かった?」
「当たり前です」
「ごめんね。俺がいるってバレたら部屋に来てくれないと思って。わざとつけなかったんだ」
「どうやって部屋に入ったんですか? 鍵は締めてたはずだけど」

 私の問いに青木さんは答えない。
 ゆったりと微笑むだけで何も言わない。
 この人はいつもこうだ。都合の悪いことは沈黙でやり過ごそうとする。目の前の問題に、真摯に向き合ってくれない。
 だから、いつまで経っても別れ話に決着がつかないままなんだ。

「……いつから居たんですか?」

 仕事が終わったら連絡して。
 そう伝えていたはずなのに。
 私の伝言が無駄になってしまった。

「ついさっきだよ。遥に会えると思ったら嬉しくて、急いで帰ってきたんだ」
「……急いで帰ってくる場所が違うでしょ」

 つい嫌味を言ってしまう。
 それでも彼の表情は変わらない。
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