募る想いは果てしなく
「奥さんとお子さん、青木さんの帰りを待ってるんじゃないですか? 早く帰ってあげたらどうです?」
「……もう名前で呼んでくれないんだね」
「貴方も名前で呼ばないでください。私達はもう、何の関係もない他人同士ですから」
「遥、俺は」
「七瀬です」
「……」

 取りつく島もない私に、彼は小さくため息をついた。

「……俺、疲れたよ」
「私だって疲れてますよ」
「抱かせてよ」
「……は?」
「だから、俺疲れてるの。遥で癒されたいんだ。恋人なんだからいいでしょ?」

 本気で言ってるんだろうか。
 全く理解できない。

「あの。人の話聞いてます?」
「おかしなこと言ってるかな」
「言ってますよ。私はもう恋人じゃないし、何度も別れたいって言いましたよね」
「俺は別れたつもりはないよ」
「じゃあご家族はどうするつもりなんですか」
「妻とは離婚する。俺は遥と一緒にいたいんだ」
「……」

 頭が痛くなってきた。
 まるで言葉の通じない動物と話してる気分。
 私が何に対して怒っているのか、彼は全く理解できていないらしい。

 離婚する、とか簡単に言うけれど。
 それで私がヨリを戻すとでも?
 そんなわけがない。
 既婚者だから怒ってるんじゃない、彼の不誠実さと裏切りに対して腹を立てているんだ。
 離婚云々は知らない。関係ない。

 既婚者の癖に、外に恋人を作る行為。
 奥さんに対する最大の裏切りだ。
 恋人の私にも、既婚者である事実を隠してきた。
 4年もだ。4年も騙され続けていた。
 これを不誠実と言わずに何と言うのか。

 そこまでの事をされて、それでも彼と一緒にいたいなんて私には思えない。
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