募る想いは果てしなく
 一瞬、目を白黒させる。
 車用時計を見れば5分が経過していた。
 いつの間にかうたた寝していたらしい。
 窓を開ければ、鈴原は勢いよく身を乗り出してきた。

「悪い。ちょっと寝てた、」
「いいから早く来て!!」

 切羽詰まった様子に眉をひそめる。
 俺の言葉を遮ってまで息巻く表情は、数分前に車から飛び出していった表情とはまるで違っていて。

「おい、どうした」
「お願い部屋に来て! 助けて!!」

 ……その一言に、不穏な胸騒ぎを覚えた。

「鈴原、落ち着け。何があった」

 この子がこんなにも取り乱している姿は初めて見る。今にも泣き出しそうなほど目が充血していて、血の気が引いたように顔が真っ青だ。
 明らかに何かに怯えているような表情。
 既に涙声だ。

 マンションから一目散に逃げてきたのか、肩で息をしていて呼吸も荒い。
 尋常ではないその様子に、動悸が激しく鳴る。

「……ッはぁ、へ、部屋が」
「七瀬の部屋か?」
「はっ、い……鍵、開いてて」
「部屋の中に入ったんだな?」

 鈴原が苦し気に頷く。
 乱れた呼吸を静めながら、更に口を開いた。

「入ったら七瀬さん、た、倒れてて……ッ、ち、血がいっぱいっ……、へ、変な男もいた……っ!」




 ―――バンッ!!

 乱暴にドアを開け放ち、マンションへと走り出す。考えるよりも先に体が動いていた。
 エレベータ―を待つのも煩わしくて、階段を勢いよく駆け上がる。頭の中はただ、七瀬の無事を願う思いと後悔の念で埋め尽くされていた。

 ――何かあったら連絡しろ。

 そう伝えたのは、俺なのに。
 だから七瀬は電話をくれたのに。

「……くそっ」

 最後の最後で、俺は判断を誤ってしまった。
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