募る想いは果てしなく
◇ ◇ ◇



 息を切らしながら部屋の前に辿り着く。
 せり上がる不安に唇を噛み締めた。
 手汗が酷い。
 ひどく緊張している。
 けど逃げるわけにもいかない。

 覚悟を決め、ドアノブに手を掛けた時。
 階段を駆け上がってくる小さな足音に気がついた。

 やや遅れて追いついた鈴原は、俺の背後から覗き込むように部屋の扉を見つめている。
 その怯え切った表情を見た時、迷いが生まれた。
 思わず手を止める。

 ……この先に、この子は連れていけない。

「……鈴原、車に戻ってろ」
「い、いやです。私も行きます」
「危ないから戻れ」
「早坂さんも危ないでしょ!?」
「言うこと聞け」
「っ……、ごめんなさい聞けません。七瀬さん助けたい」
「……」

 鈴原は頑なに引かなかった。
 本当は怖くて仕方がないだろうに。
 ただ七瀬を救いたい、その一心だけで動いているに違いない。

 部屋にはまだ男が居たという。
 鈴原の身まで危険が及びかねない、そんな場所に居てほしくはなかった。
 俺の身ひとつでは、自分と七瀬を守るだけで精一杯だ。情けないが、他を守る余裕がない。
 安全が確保されている車に居てくれた方が、まだ安心できる。

 それに鈴原は、一度現場を見てしまった。
 同じ光景を何度も見せたくない。
 憧れていたはずの先輩が、男に暴力を振るわれていたであろう生々しい惨状も。その姿も。

 けれど鈴原は言い出したら聞かないタイプだし、ここで押し問答を繰り返している場合じゃないこともわかってる。
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