募る想いは果てしなく
 両頬は赤く腫れ上がり、唇には血が滲んでいる。
 額から伝う血の筋が、顔をも赤く汚していた。
 肌が露出している部分にも、痛々しい程の痣が浮かび上がっている。内出血している箇所が、目に見える場所に点在していた。

 一目見てわかる――明らかに殴られた跡。
 瞬間、体中の血が沸騰するような憤りを覚えた。

 さっきまで綺麗な笑顔を披露していた彼女は今、まるで使い捨てられたボロ雑巾のような扱いをされて、その身を俺達に晒している。
 俺にとって七瀬は好きな人でもあり、人として尊敬している大事な同僚だ。七瀬が憧れで理想だと鈴原が言っていたが、それは俺も同じ。いつも七瀬の背中を見てきた。

 そんな人を、最悪な形で傷つけられた。
 こんなに近くにいたのに。
 助けを求める声に気づけなかった。
 守ってやれなかった。

 気が狂いそうになる程の殺意が湧く。
 男を殴り飛ばしてやりたい衝動に駆られたが、寸でのところで思い止まった。

 ここには鈴原もいる。
 俺まで感情的になってアイツに詰め寄れば、逆上した男が暴走するかもしれない。
 それだけは絶対に避けないと。
 鈴原にも早く、この場から遠ざけてやりたい。

 ぐっと怒りを抑え込む。
 感情を押し殺して優先すべきことを考えた。
 まずは彼女達の身の安全を確保すること。
 そして七瀬の治療。
 この際、男は放っておく。
< 58 / 77 >

この作品をシェア

pagetop