募る想いは果てしなく
「……鈴原、動けるか?」
「……えっ、あ、はい」
「七瀬は無事だから安心しろ。寝てるだけだ。ここ最近激務だったからな、疲れて熟睡中だ」
「え、えぇ……」
「近くに夜間急病センターがあるはずだ。そこに電話してほしい。焦る必要ないからな。患者の状態を聞かれたら取り次いでくれ、俺から話すから」
「っ、はい!」

 急な頼み事にも鈴原はすぐに対応する。
 取り乱してる様子もない。
 いま優先すべきことが何なのか、この子もちゃんと理解して動いてくれるのは頼もしかった。

 逆に男の様子は変わらずだ。
 項垂れながらひたすら呟き続けている。
 傍から見ても不気味でしかない。
 奴に注意を向けつつも、七瀬の状態を確認することにした。

 彼女の口元に手を当てる。
 顔色は悪いが、呼吸自体は安定している。
 胸がゆっくり上下していて一先ず安心した。

 床に残されている血痕は、額に出来た傷口から滴り落ちたものだろうか。
 出血は止まっているようだが、本人に意識がないのが気になる。頭は動かさない方が賢明だ。

 他の部分もざっと確認を済ませる。
 暴行を受けた箇所は大体把握できた。
 痣はあるが、骨折していそうな場所はない。
 あとは医師の判断に任せた方がいいだろうと結論づけた時。

 ずり、と床を這いずる音が聞こえた。
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