募る想いは果てしなく
◇ ◇ ◇


「ちょっ、待てって七瀬」

 マンションに着いてからというものの、背中越しに本日何度目かの制止の声が掛かる。
 ちなみに七瀬というのは私の名前だ。
 七瀬(ななせ)(はるか)。先月、26歳を迎えたばかり。

「なに?」
「なにじゃねーよ。俺帰るからな」
「私の部屋で飲み直そうって言ったじゃん」
「七瀬が勝手に言ったんだろ。おい引っ張んな」

 がっしりと腕を絡ませて、独身男性を部屋に引きずり込もうとする喪女とは私の事か。
 もちろん普段はこんな事しない。
 誰彼構わず部屋に誘わない。
 仲のいい早坂ですら、部屋に招き入れたことはない。今日が初めてだ。

 早坂は基本優しいし、私に甘い。
 どんなワガママも付き合ってくれる。
 だから宅飲みも承諾してくれると思ってた。
 こんなに拒絶されるなんて思わなくて。

 少なからずショックを受ける。
 私の部屋で飲むのがそんなに嫌なのかな。

「なんでそんなに嫌がるの?」
「別に嫌じゃないけど」
「じゃあ付き合ってよ。今日はとことん飲み明かしたい気分なんだから」
「だめだって」
「なんで」
「……七瀬、男いるだろ」

 はっ? と素っ頓狂な声が出た。
 ぱちぱちと目を瞬かせる。
 早坂は苦虫を噛み潰したような、険しい表情を浮かべている。

「彼氏持ちの女の部屋には入れない」

 というのが早坂の言い分だった。
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