募る想いは果てしなく
 待合室にいた時も、病院から出た後も。
 私の中に残っていた、漠然とした正体不明の不安。

 その正体はこれだ。
 あの人がまた会いに来る、それがいつなのかがわからない、何処から現れるのかわからない未知の恐怖。
 それが私の心を支配しているからだ。

 もし彼と鉢合わせてしまったら、理不尽な暴力を受けるんじゃないか。もしかしたら、今もどこかで私を見てるんじゃないか、尾行されてるんじゃないか。
 そんな被害妄想に囚われてしまっている。

 戦慄が心に波打つ。
 両手が、また小刻みに震え始めた。

 血の気がどんどん引いていくのがわかる。
 冷や汗が止まらない。
 指先の感覚もわからない。
 全神経が麻痺していくような錯覚を覚えた時。

 あ、まずい――
 そう気付いた時には遅かった。

 呼吸ができなくなっていた。



「……七瀬?」

 呼び掛ける声は不安げに掠れている。
 私の異変に気付いたのだろう。
 でも何も答えられなかった。
 息が苦しい。
 浅い呼吸を繰り返すことしかできない。
 過呼吸なんて初めての経験で、頭の中はパニックに陥っていた。

「七瀬っ」
「は……ッ、ごめ……っ」
「七瀬、落ち着け。ゆっくり息を吐けば治る。大丈夫だから」

 嫌な汗が伝う背中に、手のひらが何度も行き来する。
 労るようにさすってくれる動きはとても優しいものなのに、私の呼吸は落ち着くどころか、どんどん荒くなっていく。
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