募る想いは果てしなく
 苦しげに喘ぐ私の傍で、カチリと響く無機質な音。
 早坂が自分のシートベルトを外したようだ。
 身を乗り出して私の分も外してくれる。

「七瀬、医師呼んでくるから」

 その一言に心臓が冷えた。
 また。またみんなに迷惑をかけてしまう。
 咄嗟に早坂の上着を掴んでいた。

「まっ、て……大丈夫、だからっ」
「……っ」

 ずっと俯き加減でいる私には、早坂が今どんな表情をしているのかはわからない。
 でも、見なくてもわかる。
 私と同じくらい苦痛に歪んでいるのを。

 誰にも迷惑をかけたくなくて。
 でも一人にもなりたくなくて。
 大丈夫だという虚勢と、誰かに傍にいてほしい本音が、私の中でない交ぜになって早坂を引き止める。行かないで、と。

「……っ、七瀬」

 ああ、早坂に心配かけてる。
 不安にさせてる。
 大丈夫だって言わなきゃ。
 そう思うのに、ヒュ、ヒュ、と忙しなく喉が鳴って言葉にならない。

 荒い呼吸の繰り返しで気が遠くなる。
 徐々に意識が薄れかけてきた、その時。

「――……悪い、七瀬。許せ」

 耳元で、吐息のような囁きが聞こえた。




 不意に顎を持ち上げられる。
 目の前には、早坂の長い睫毛が揺れていて。

 え、と開きかけた私の唇は――
 次の瞬間、早坂の唇で塞がれていた。

「んっ……」

 触れ合う隙間から吐息が漏れる。
 掻き乱れていた思考が、一瞬でクリアになった。
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