募る想いは果てしなく
 予期せぬ感触に戸惑う。
 心臓が突然跳ね上がった。
 頬が熱くなり、頭の中が真っ白になる。
 何が起きているのか理解できず、抵抗することも忘れて彼のキスを受け入れた。

 戸惑いに揺れる間も、キスが止む気配はない。
 そればかりか、抉じ開けられた唇から新たな酸素が送り込まれてきた。

 けれど、早坂の舌が侵入してくることはない。
 唇を重ね合わせているだけ。
 リップ音が奏でる事もない。
 だから気付いた。これはキスじゃない。
 キスなんだけど、目的が違う。乱れた呼吸を鎮める為のもので、愛情を確かめ合う行為じゃない。

 言うならばこれは、人工呼吸。

 なんだか早坂らしい、と思った。
 妙な安心感が広がっていく。
 不思議と呼吸が落ち着いてきた。



 ――過呼吸に、キス。
 医学的には可能だと言われている。
 ただ悪化する危険性も孕んでいる。
 ペーパーバッグ法と理屈は同じだから、窒息死する可能性だって高い。

 本来、好意を持った相手に対して行うのが理想的だと言われているやり方を、臆することなくやってのけた早坂は、それだけ私のことを信頼してくれている証で、私達の信頼関係が厚いとも言える証拠。

 胸がきゅっとなる。
 どうしてだろう、とても嬉しかった。
 鼻からゆっくり息を吸えば、早坂の匂いを感じる。
 不思議な安堵感に満たされて、私は静かに瞳を閉じた。

 波立っていた心が凪ぎていく。
 早坂の体温を感じたくて、顎に添えられた手の甲にそっと触れてみた。
 それが、私が落ち着いた合図だと悟ったのか。
 早坂はそっと唇を離した。
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