募る想いは果てしなく
 互いの吐息がかかりそうな距離。
 早坂は真摯な眼差しで私を見つめていた。
 その瞳にはいつになく切実な光があって。
 慈しむような優しい色合いに、今度は別の意味で鼓動が早くなった。

 とくんとくんと、静かに心臓の音が聞こえる。

「……大丈夫か?」

 優しい声で問われ、私は小さく頷いた。
 早坂がほっと息をつく。
 その柔和な笑みに、私まで救われたような気持ちになる。
 心の奥底に溜まっていた不安が、少しずつ溶けていくみたいに。

「ありがとう早坂。治ったみたい」
「……治ったならいい。突然すぎてビビったわ」
「ごめんごめん。私も急に息できなくなってビックリしちゃった」
「……本当にもう大丈夫か?」

 まだ少し心配そうな早坂を安心させたくて。
 柔らかく微笑むと、ようやく安心したように肩の力を抜いた。

 椅子に座り直し、シートベルトを締める。
 くすぐったいような軽やかな気持ちが胸に広がる。
 頬が緩むのを抑えきれなくて、私は両手で口元を覆った。

「こんな風にキスされるとは思わなかった。ドラマみたいだね」
「他に方法思いつかなくて。悪いな」
「謝らないで。……ありがと、本当に」

 満面の笑みを返せば、早坂は耳の後ろを掻きながら目を逸らした。
 照れくさそうな態度にかすかな満足感を得る。
 とはいえ状況が落ち着けば、おのずと現実に向き合わなければならなくなる。

 考えなきゃいけないことは山ほどあって。
 でも全て後回にしたい。休みたい。
 頭が考えることを拒絶してる。
 でも、あの部屋には……帰りたくない。

 思い悩む私を見て、早坂が口を開いた。
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