募る想いは果てしなく

戸惑う心

7



「ねえ、ちょっと待って早坂」

 呼び止めようとする私の声を無視して、早坂はドアにカードをかざした。

 ピッと軽快な音が響く。
 同時に扉の解錠音。
 早坂の手にはマンションのICカードキー。
 そう、ここは彼が住む部屋の前。

「私まだ納得してないんだけど」
「さっき話し合って決めただろ」
「ホテルに泊まるから大丈夫だって」
「宿泊料金どんだけ掛かると思ってんだよ」

 押し問答を繰り返す。
 早坂に口で勝てる自信はないけど、私だって引けない。

「ネカフェとかもあるし」
「あんなとこで休めるか。大体、その顔で行くつもりか?」
「う……」

 言い返せずに口を噤む。
 確かにこの顔では外出も困難だ。
 隠しようもない傷が残ってるし痣だらけ。
 こんな出で立ちでネカフェに行こうものなら、変質者だと勘違いされて警察を呼ばれかねない。

 ――急病センターから出た後。
 眠りから覚めた時、見慣れない光景に困惑した。

 レンガタイル貼りの複合型マンション。
 おしゃれで洗練された外観。
 植栽や街灯が整備されたエントランス。
 1階にはコンビニが併設されていて。
 私が住んでるボロマンションとは全然違う。

 目を白黒させている私をよそに、早坂はマンション1階にあるコンビニの駐車場に車を停めた。
 早坂が一人暮らしをしてる場所らしい。
 らしい、というのは、私はこのマンションに一度も来たことがないから。今日が初めて。

 そして早坂は私に告げた。
 自分のマンションに戻るのが嫌なら、ここで寝泊まりすればいいと。
 これが彼の『話したいこと』。
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