募る想いは果てしなく
 早坂に恋人の存在がいないのは知ってた。
 本人がそう言ってたから。
 だからって1人暮らしの男の部屋に、怪我を負っている訳ありの女が転がり込むのはどうなのか。
 私だって昨日、彼を部屋に泊めたけど。
 昨日と今日とでは状況がまるで違う。

 それから、今後のことも車内で相談した。
 まずは警察に被害届を出すかどうか。

「よく考えた方がいい。向こうは七瀬の住んでいる場所も、連絡先も把握してるんだろ。被害届を出さないなら、七瀬は常に受け身で構えていなきゃいけない。精神的にキツイと思うぞ」

 そう、向こうは自由に動ける身。
 こっちは彼の影に怯える毎日。
 想像しただけで精神がえぐられそうだ。

 暴行や傷害事件は、被害を受けた傷が残っているうちに訴えた方がいいと聞く。
 でも青木さんには妻子がいる。
 それが一番の懸念材料だった。

 問題が露呈するくらいなら、警察は挟みたくない。
 大ごとにはしたくない。それが正直な気持ち。
 でも早坂は首を縦に振らなかった。

「七瀬の言い分もわかるよ。確かに向こうの妻子に罪はない。でも、だからって七瀬が泣き寝入りしなきゃいけないことなのか?」

 正論すぎてぐうの音も出なかったよね。

「……大体、なんで青木を部屋に入れたんだよ。危ないから2人きりにはなるなって言っただろ」
「それは悪かったと思うけど……」

 早坂から何度も受けた忠告。
 思わず歯切れが悪くなる。

「まさか部屋の中で待ってるとは思わなかったし」
「……中?」

 私の一言に、早坂が不自然に言葉を止めた。
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