募る想いは果てしなく
「小学校に行けば友達がいて、家に帰ればパパとママがいて。大好きな友達と家族に囲まれて毎日幸せ。もしかしたら、大好きなおじいちゃんとおばあちゃんもいるかもしれないね」
「……」
「私が青木さんを警察に訴えれば、その子の幸せを全部壊してしまうことになる」
「……」
「早坂が同じ立場だったら、できる?」
「……それは」
「……私には無理だよ」

 一番悪いのは誰なのか。
 内密に不倫行為をしていた私と青木さんだ。
 子供には何の関係もない。奥さんにも。

 私達が犯した過ちに、子供や奥さんを巻き込んじゃいけない。穏便に済まそうとしてるこの考えこそが卑しくて、甘ったれた言い訳だと罵られたとしても構わない。

「私はね、青木さんがちゃんと反省して、私と別れて家族の元に戻ってくれればいいの。その子の父親を犯罪者にしたいわけじゃない。だから警察には行かない。おっけ?」
「……わかった。悪い、無神経だった」
「早坂が私の身を案じてくれてるのはちゃんとわかってるよ。ありがとね」

 そんな会話を車内で交わした。
 早坂も渋々ながらも納得してくれた。
 でも、そうなると新たな問題が発生する。
 今後の青木さんとの向き合い方だ。

 彼との話し合いは続けたいと思ってる。お互いに納得した上で、ちゃんと別れたいから。
 でも、今はまだ会えない。
 会いたくない。
 思い出すと体が恐怖で強張ってしまう。
 いま青木さんと会っても、まともに会話なんてできない気がする。

 だけど相手は私の住まいを知っている。
 連絡先も、勤務先だって知ってる。
 帰り道やマンション前で待ち伏せされる可能性だってある。
 だから早坂は私に提案してきたんだ。
 自分の部屋を一時的に避難場にすればいい、と。

 そうして今に至る。
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