募る想いは果てしなく
「……先にいいの?」
「いーよ。でもシャワーだけな。風呂は駄目だって言われたんだろ?」
「うん……でも」

 いいのかな? と一瞬ためらう。
 部屋の主より先に入浴することに迷いがあったけど、せっかくのご厚意なので素直に従っておく。
 バスタオルを借りた後は浴室に入り、ささっと済ませてから身体を拭いた。

 必要最低限の物はコンビニで購入済み。
 さすがに服だけはどうにもならなくて、仕方なく、早坂から借りたシャツに袖を通す。
 当然ながらサイズが違う。
 指の先まですっぽり隠れてしまう。
 袖口をくるくるして捲し上げれば、ふわりと柔軟剤の香りが漂った。

「あ、これ彼シャツ……彼氏じゃないけど……」

 そうだ、早坂は彼氏じゃない。
 彼氏じゃない人のシャツを、お風呂上がりに着ている。正直複雑だ。

 恋人以外の男の物を身につけるなんて無理。今までそう思っていたのに、早坂なら平気だと思えてしまうこの感情は何だろう。あまつさえ、キスまで許してしまった。
 そのうえ部屋に泊まるとか、色々大丈夫か。

 早坂が何かをするなんて思ってない。
 そうじゃなくて、何かの拍子でタガが外れてしまいそうなフラグが私に立っている。あのキス以来、早坂を意識している自分がいる。

 あれはキスと言うより人工呼吸。
 それはわかってるんだけど。

「……やばい、私やらかした?」

 瞳を閉じれば、瞼の裏に鮮明に蘇る。
 突然のキスも。その後の優しい表情も。
 それどころか、運転中の横顔や、私を見やる視線。いつもよりも近い距離。
 これまで見てきたはずの光景なのに、今日はなんだか違って見える。

 もう一度唇を押さえた。
 頭の中でリフレインを繰り返す。
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