募る想いは果てしなく
◇ ◇ ◇



 早坂は10分くらいで戻ってきた。
 早い。シャワーだけ済ませてきたのかな。
 本当はもう少し、1人で考える時間が欲しかった。
 心の準備が欲しかったというのに、そんな時間すら与えてくれない。

 早坂から促されてベッドに潜り込む。
 距離を取るように、端っこに体を移動させた。

「電気消すぞ」
「はーい」
「おやすみ」

 途端に視界が暗闇に包まれる。
 隣からシーツの擦れる音がして、早坂もベッドに潜り込んでくる気配を察した。

 2人で寝ると当然狭い。
 しかも早坂の匂いがして落ち着かない。
 気恥ずかしくて壁側に寝返りを打った時、肋骨に鋭い痛みが走った。

「痛ッ!」
「うわ何だ」

 早坂が驚いて起き上がった。
 脇腹の痛みに悶える私を見て、小さく悪態をつく。

「ばか、骨折してる方を下にして寝るなよ」
「だって……」

 早坂に顔を向けて眠れる気がしない。
 でも背中合わせで寝るのが難しいなら、仰向けになって寝るしかない。

 ゆっくりと体勢を戻してから目を瞑る。
 隣は見ない。というか、見れない。
 なのに心なしか、早坂に見られているような気がして鼓動が乱れる。息を吐くにも緊張を伴う。

「……おい」
「ひゃ!?」

 突然の声に驚いて目を開けてしまう。
 流れるように視線が逸れて、早坂と瞳が合った。
 瞬間、頬に熱が集まる。
 息も触れるくらいの距離感に面食らってしまう。

「な、なに」
「早く寝ろって」
「早坂こそ早く寝なよ」
「七瀬が寝たら俺も寝る」
「な、なにそれ。私の寝顔でも鑑賞する気なの」
「そうかもな」
「っ、ぜったい早坂より先に寝ないから!」
「それ先に寝る奴が言うパターンだな」
「いーから早く寝て! 私も寝るから!」

 布団の端をグイと引っ張る。
 顔まで覆って目を瞑った。
 視界を塞いだところで、隣の気配が気にならないわけがない。むしろ視覚を遮断したことで、他の感覚が研ぎ澄まされた気がする。

 布団越しに視線が降り注いでいるような気がしてたまらなかった。
 恥ずかしいのに嫌じゃない。
 嬉しいけれど気まずい。
 それは今まで、早坂に対して抱いたことのなかった感情で。
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