募る想いは果てしなく
「……七瀬」

 すぐ傍で静かな声が落ちる。
 早く寝ろとか人に言っておいて、コイツは本当に私を眠らせる気があるんだろうか。

 ゆっくりと顔を覗かせる。
 恨みがましい視線を隣に向けた。
 私を見つめ返す早坂は、困ったような顔で微笑んでいる。

「……ここにいろよ」
「……え」
「明日出ていく必要ないだろ。行く当てが見つかるまでここにいればいい」
「でも迷惑……」
「迷惑かけると思ってんなら、夕飯とか作ってほしい。無理しない程度に」
「……飯炊き? いいの?」
「七瀬が嫌じゃなければ」
「……嫌じゃないよ」

 感謝こそしてるけど、嫌だなんて思わない。
 それでも迷惑をかけてしまうことには変わりないし、やっぱり1人暮らしの男の部屋に連泊するのはどうなのかな、という思いもあって。

「あのさ早坂、念の為に聞くけど」
「ん?」
「本当に彼女いないの?」
「なんだよ急に」
「もしいるなら言って。彼女持ちの男の部屋に泊まるわけにはいかないから」

 なんて言いながら既視感。
 昨日、私の部屋の前で交わした会話と同じ。

「いない」
「あ、そう……」

 素っ気ない返答にほっと息をつく。
 『気になる人は?』
 口をついて出そうになったその言葉を、無理やり飲み込んで唇を結んだ。

 その答えを聞いてしまったら。
 なんとなく、自分が傷付く予感がしたから。
 なのに。

「気になる奴はいるけど」
「……え。そ、そうなの?」
「ん」
「へ、へぇー……全然知らなかったよ」

 平然な振りをして笑顔を作る。
 内心は穏やかじゃなかった。
 打ち明けるタイミングが悪すぎるよ早坂。
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