募る想いは果てしなく
 心が弱っていた時に、一番仲の良い同僚に助けられて、優しくされたから自惚れていたんだ。
 早坂の存在が心の拠り所になっていたことに気づいて、そして早坂自身も私のことを、大きな存在として見てくれている……なんて。

 そんなわけ、なかったよね。



◇ ◇ ◇



「……瀬、おい七瀬」

 肩を揺すられて、夢の世界から引き戻される。
 霞がかかった視界の端には、私を覗き込むように見下ろす早坂の姿が見えた。

「……早坂」
「悪い、寝てたのに起こしちまって」
「ん、へーき……おはよう」
「……おはよう」

 寝惚け眼をこすりながら上半身を起こした時、肋骨にふと違和感を覚えた。
 手で触れてみても痛みはない。
 けれど腕を上げようとしたら、動かなかった。

「うわ……」
「どうした?」
「腕が全然上がんない。痛すぎる」
「無理に動かすなよ」
「うん……」

 朝から億劫になる。
 しばらくはこの痛みと付き合っていくしかない。
 早坂は既に朝支度を済ませていたようで、出勤用のダウンジャケットを羽織っている。
 室内にほんのり漂うコーヒーの香り。
 朝食も先に済ませたらしい。

 もう少し早く起きればよかった。
 早坂と一緒にご飯、食べたかったな。
 なんて、呑気なことを考えた私に追い討ちをかけるようにお腹の虫が鳴る。

「お腹すいた……」

 昨日はあんな事があったから、夜は何も口にしていない。食欲も湧かなかった。
 一眠りしたら猛烈な空腹感が襲ってくる。
 コンビニで何か買ってこようかな、と思った時。早坂の指がおもむろに、テーブルの上を指した。

 そこにはラップに覆われた状態の器。
 それが朝食のお裾分けだと気付き、私は瞳を輝かせた。
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