募る想いは果てしなく
「え、ありがとう。作ってくれたの?」
「簡単なものだけど。味は保証する」
「すごい自信だね」
「ただ焼いただけのやつだから。自慢できるほどじゃない」

 早坂の口調はいつもと同じ。
 普段と何も変わらない。
 昨日の出来事なんて忘れたかのような気配を纏っていて、その事実が、私の心に影を落とす。

 そんな風に、無かったことのように扱われるのは正直寂しい。気にしているのは私だけなんだと思い知らされる。
 ……めんどくさいな、私って。

「七瀬、検査の予約って何時だっけ?」
「11時からだよ」
「まだ時間あるなら寝てろよ。無理して動かない方がいい」
「ううん、目も覚めちゃったし起きるよ。私も出ていく準備しなきゃ」

 朝になったら此処を出る、早坂にそう伝えたからには悠長に滞在していられない。
 1人暮らしをしている人の部屋に居候する、それが相手にとって、どれだけの重荷になるか。
 多方面で迷惑を被るのは早坂だ。
 それは私の本意じゃない。

 諌めるような視線が気になったけど、無視してベッドから這い出した。
 体のあちこちがまだ痛む。
 肋骨に負担をかけないよう慎重に歩みを進め、テレビの前に置かれたテーブルについた。

 ラップを外せば、湯気の立ち始めた朝食。
 スクランブルエッグとウインナー。
 それとトースト。
 早坂お手製の朝ご飯が私の前に並んでいる。
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