募る想いは果てしなく
◇ ◇ ◇




「あ、七瀬さーんっ」

 病院から出た直後。
 涙混じりに聞こえてきた声に苦笑する。
 駐車場には見覚えのある車が1台。
 早坂の車だ。

 運転席には本人の姿もある。
 その後部座席から見知った姿が飛び出してきた。
 今にも泣きそうなほど表情を歪ませて、小走りで私の元へ駆け寄ってくる。

「かなえちゃん」
「怪我で1週間くらい休むって早坂さんから聞いて、もう私、居ても立ってもいられなくて。早坂さんに頼み込んで、病院まで来ちゃいましたっ」

 両手で握り拳を作りながら息巻くかなえちゃん。
 彼女は確か今日、お休みのはず。
 なのに出迎えに来てくれるなんて。
 早坂は休憩中に抜け出してきたんだろうな。

「怪我っていっても軽いから大丈夫だよ。心配かけちゃってごめんね」
「でも七瀬さんの肋骨が1本逝ってしまわれたと聞きました……」
「早坂に聞いたのそれ。逝ってないから大丈夫。じきにくっつくし、来週には仕事復帰するからね」

 頭の検査結果は問題なし。
 骨折以外は酷い損傷もなかった。
 痣はしばらく残るだろうけど、それらもじきに消える。
 散々な目に遭ったけど、これだけの怪我で済んだのは幸運だったかもしれない。

「それより早坂から聞いたよ。かなえちゃん、私を助ける為に部屋に乗り込んでくれたんでしょ? 本当にありがとう。怖いもの見せちゃってごめんね」
「わわ、早坂さん喋っちゃったんですか……うう、恥ずかしい」
「早坂もね、頼もしかったって褒めてたよ」

 両手で顔を隠しながら照れまくる。
 褒められてとても嬉しそう。
 眩しい笑顔で笑う姿を見て、不思議と元気が湧いてきた。
 こんな愛くるしい姿を見ていると、本当に私は同期にも後輩にも恵まれているのだと実感する。
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