募る想いは果てしなく
「なに動揺してんの早坂」
「いや、ちょっとむせただけ……」
「昨日は友達の所に泊まったよ。でも何日も居候するわけにもいかないし、どうしようかなって困ってるところなんだよね」
「えっ、じゃあ私のとこ来ますか!?」

 この手の対応は、早坂より私の方が得意。
 かなえちゃんが興味を持ちそうな話題を振れば、案の上食いついた。

 彼女の提案はとてもありがいたいけど。
 でもかなえちゃんは実家暮らしだ。
 ご両親にとって、娘の上司にあたる人が、人には言えない事情を抱えながら何泊も居候するなんて、さすがに信用を失いかねない。

 これは自分で蒔いた種。
 私自身でどうにかしなきゃいけない問題だ。

「ありがと。本当に困った時は頼ろうかな?」
「いいですよ! いつでも待ってますねっ」

 ニコニコと純粋無垢な笑顔が眩しい。
 かなえちゃんの素直な気持ちが嬉しくて、同時に良心が痛む。

 この子に頼るつもりは毛頭ない。
 本音を言えば早坂にも頼りたくない。
 だって情けないし恥ずかしい。
 青木さんが既婚者だった事実を知らなかったとはいえ、不倫は公序良俗に反する共同不法行為であることに変わりないんだ。

 被害者はあくまでも彼の配偶者。
 私は加害者。
 身の程を知れという話だ。

 そもそも青木さんさえ協力的になってくれれば、私1人でも解決できる問題だと思っていたし、そうしなきゃいけないと思っていた。
 私達の問題は私達で解決すべき。
 だから周りを巻き込んではいけない、と。

 そう勝手に結論付けて、一方的な正義感に浸って。
 誰にも頼らず1人で突っ走っている私は、本当に愚かだと言わざるを得ない。
 1人でできることなんて限界があるのに、その限界を見極めることもせず、結局私はこの時も、彼らの気遣いを無下にしてしまったんだ。
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