募る想いは果てしなく
◇ ◇ ◇



 早坂と別れた後、タクシーでマンションへ戻る。
 怪我を負っている私を気遣って、かなえちゃんも一緒に来てくれた。

 部屋の惨状を見て、改めて事の重大さを思い知る。
 雑誌や郵便物が床のあちこちに散乱し、テレビのリモコンも見事に破損していた。

 昨日の狂気を目の当たりにして胸が痛む。
 とはいえ、派手に壊されてるもの自体は少なくて安心した。

「窓とか割れてなくてよかった」
「危ないですもんね。破片とか」

 雑談をしながら必要な物をバッグに詰める。
 この逃亡生活はいつまで続くんだろう。
 これを期に引っ越すのも有りかもしれない。
 でも、そうすると今度は勤務先に彼が現れるかもしれない……という懸念が生まれて気分が落ちた。

 やっぱりまだ、恐怖が拭いきれない。
 だいぶ落ち着いたとはいえ、昨日の今日だ。
 あの悪夢を過去話にできる日は遠いだろう。



 大家さんと話をつけて、再びタクシーへ戻る。
 このまま早坂のマンションへ向かう予定。
 かなえちゃんには友人のマンションだと嘘ついた。
 早坂の住んでる場所なんて知らないだろうし、偽ってもバレることはないと思う。

 嘘をついていることに対して申し訳なさはあるけれど、さすがに早坂の部屋に寝泊まりしてるなんて言えない。

「あー……一気に疲れた」

 大きなボストンバッグを2つ、後部座席に置く。
 その隣にかなえちゃんと一緒に乗り込んだ。
 そこそこな量になってしまった荷物を見て、かなえちゃんは小さく吹き出す。

「振り回されっぱなしですね、七瀬さん」
「ほんとそれ。男女の縺れって本当めんどくさいの。かなえちゃんはちゃんと相手を見極めて、いい恋するんだよ」
「七瀬さんは、新しい恋人作らないんですか?」
「んー……」

 一瞬だけ、早坂の顔が思い浮かんだけど。
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