深瀬くんが甘すぎる

こそ、っと気配を消して教室の中をのぞく。
教室の窓側よりの後ろの席に男子が座っているのが目に入った。

…あの背格好、制服の着崩し、それに何より座ってる席。

うん、教室にいるのは深瀬くんに間違いない。

どうしよう、教室に入ったらたぶん気まずいけど、扉の前で立ちっぱなしってわけにもいかないし…。

一瞬悩んで、それから覚悟を決めて教室の扉を開ける。

大丈夫、昨日話した感じからして深瀬くんは返事がそっけないだけで理不尽に怒るような人ではない、はず。

半ば願望のような形で自分にそう言い聞かせ、教室の中に足を踏み入れる。

深瀬くんが見ていたスマホの画面から顔を上げて、ばちりと目が合った。


「…おはよう、早いね」


目が合ったのに何も言わずに無視するわけにもいかなくて、結局口にしたのは昨日みたいに中身が空っぽな挨拶だけ。
もっと会話が続くような挨拶ができればいいんだけど、今の私にはこれが精いっぱい。
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