離婚した元旦那様、恥ずかしいので心の中でだけ私を溺愛するのはやめてください、全て聞こえています。
 状況を打破する方法は何かないのか?


《今なら誰も見ていない。
 絶好の機会だわ》

 なす術なく立ちすくむ朧へと、小花が突進してくる。

 まずい、と思った瞬間には、朧の身体は宙に投げ出されていた。

 小花の渾身の体当たりで崖から落ちたのだ。

「湊斗さんを誘惑した、あなたが悪いのよ」

 小花のその呟きを聞いたのを最後に、浮遊感に包まれた朧の目に映る景色が目まぐるしく変わった。

 天地がぐるんぐるんと入れ代わり、切り立った崖と朧を迎える、岩をも砕く獰猛(どうもう)な波を立てる黒い海とが交互に映る。

 全ては、スローモーションのようだった。

 身体は生命の危機を訴えているのに、頭は妙に冴えていて、ああ、自分はもうすぐ死ぬんだな、と冷静な判断を下す。

 一目、湊斗に会いたかったな、と考えながら、諦念の境地になり、目を閉じ、迫りくる衝撃に覚悟を決めた。

 長い長い時間をかけて落下する──そう思っていた朧の身体は、次の瞬間、柔らかい何かの上に落ちた。

 海に落ちたのではない。

 では何が……。

 恐る恐る瞳を開くと、強烈な朝陽が朧の目を焼く。

 夜明けだ。

 そして、自分を受け止めたものの正体を確認した朧は、驚きに目を見開いた。 


 黄金に彩られた巨体、真紅に縁取られた、鮮やかなうろこを持つ龍が、朝陽を浴びて、神々しく光り輝いていた。

 龍は身体に朧を乗せ、凄まじい速度で崖を昇り始める。

 強い風が生まれ、朧は龍にぎゅっとしがみつく。

 温かな、龍のぬくもりには、覚えがあった。

──湊斗。

 
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