神に選ばれなかった者達 後編
その為には、こいつの正体なんて、むしろ知らない方が良いだろうな。

下手に余計なことを知っちゃって、余計な感情を抱いてしまったら、もう殺せないから。

あんたさん達だって、自分が今夜食べるトンカツの為に殺された豚が、何処で育てられて、どんな人生(豚生?)を送って、どんな風に屠殺されたか、なんて。

そんなこと知りたくないだろ?

知っちゃったら、もうトンカツなんて二度と食べられねぇよ。

世の中には、知らない方が良いこともある。

むしろ、知らない方が幸せなことだらけだ。

「何か叩き割れるもの、ないかな…?」

萌音ちゃん、周囲をきょろきょろ。

残念ながら、ここには武器になりそうなものは何もない。

だだっ広い部屋の中に、このカプセルが一つあるだけだ。

「…手榴弾で爆破する?」

と、提案するみらくちゃん。

「でも、手榴弾だと確実に殺害出来る保証はない。確実に殺す為には、まずこのカプセルを先に壊すべきだろう」

響也君がそう言い、自らの武器…錐を握り締めた。

それで叩き壊すつもりか?

「僕がやるよ」

自らそう申し出たのは、いそら君だった。

成程。鉄パイプで殴り壊す算段か。

いそら君は、鉄パイプを手に前に出た。

「やるのは良いが、なるべくこの液体には触れないよう注意してくれ」

「何?」

「人間には有害の液体である可能性がある」

と、忠告する李優君。

…確かに。

よく理科室に置いてあるホルマリン漬けも、素手で触るとヒリヒリするんだっけ?

まぁ、この液体がホルマリンとは限らない訳だけど。

その辺全然詳しくないから。識者求む。

「そうか…。じゃあのぞみ、お兄ちゃんから離れてて」

いや、あんたさんが気をつけろってことたよ。

妹ちゃんを逃がすのも大切だけど。自分も怪我しないよう気をつけてくれよ。

「お兄ちゃんこそ、怪我しないでね」

そうそう。もっと言ってやってくれのぞみちゃん。

「くれぐれも気を付けて。ここまで来て、お兄ちゃんだけ死ぬなんて嫌だよ…」

「大丈夫。心配しないで」

いそら君はのぞみちゃんに微笑んで、鉄パイプを構え。

そして、思いっきりカプセルを殴りつけた…。

…の、だが。

カプセルが割れ、中の液体が飛び散るかと思いきや。

ガラスのカプセルを、バキッ、と音を立てて殴っただけで。

カプセルには、ヒビ一つ入っていなかった。

…おい。嘘だろ。

「…っ…」

二度、三度と鉄パイプを振り下ろすも、やはりカプセルは壊れない。

何これ。頑丈にも程がある。

それどころか、鉄パイプの方が参ってしまい。

五度目に振り下ろした拍子に、鉄パイプの先っちょがバキッ、と壊れて、折れてしまった。
< 218 / 312 >

この作品をシェア

pagetop