キミのために一生分の恋を歌う -first stage-
晴さんは隣に座って、黙ったまま腕時計で確認しながら脈を測っている。

「最近ずっと外出してるようだから、無理してるようなら即病院へ引っ張っていこうと思ったけど大丈夫そうだ」
「うん。最近すごく調子いい。晴さんのお陰だね」
「この間渡したあの薬が効いてるのもあるんだろう。だけどあれは長期間使えるものじゃない。無理は禁物だ」
「うん分かってる。 でも明日には小春と長野に行くんだよなぁ」
「ん? それはまた急だな。なんで」
「まだ秘密」

そうすると晴さんは少し考え込むような仕草をした後、こちらを向き直す。

「誰かに連れてってもらうの?」
「小春と新幹線だよ」
「じゃあ僕が車で連れていくよ。お盆中は当直入ってて無理だし、そろそろ実家に帰りたかったから」
「え、晴さんの実家って長野なの?」
「言ってなかったっけ」
「聞いてない!」
「そんなに広くは無いけど良かったらついでに家に泊まっていくといい。空気だけは綺麗だぞ」
「いいの!?」

明日は日帰りのつもりだったけれど、まさかの晴さんのご実家訪問!?

「まあ急に小夏たちみたいな若い子を連れて帰ってきたら親に驚かれるかもしれないけどな。それは上手く説明しておくから」
「ふふ、嬉しいな。楽しみ」
「そんなに?」
「うん、私の知らない晴さんのことをまた知れるから」

すると突然、晴さんはデコピンをした。

「なに、いだーい!!」
「喘息は良くても最近また少し痩せたな。熱中症にでもなったらドクターストップをかけるぞ」
「よくよく気をつけます……」
「そうして。ほんとに手のやける患者だから」

そろそろまた歩きたいんだろと、晴さんは手を伸ばしてきた。
私は素直に手を握り返す。
歩いて体力をつけたいという私を渋々という感じで晴さんは家まで送ってくれた。
< 64 / 90 >

この作品をシェア

pagetop