キミのために一生分の恋を歌う -first stage-
「本当は家族も病室になんて入れないんだけど、僕は医者だったから入れてもらうことが出来たんだよ」
「そっか。一緒に居られたんだね」
「うん。最後に少しだけ陽菜と話が出来た。『お兄ちゃん、お医者さんになってくれてありがとうって……約束だよ……私が居なくなっても……ちゃんとみんなを元気にするお医者さんになってね』って……そう、言ってたよ」

晴さんが俯いた。肩が僅かに震えている。
私は何も言わず、後ろから晴さんの身体を抱きしめた。

「僕はこんなことを知らせたくて……小夏とここに来たわけじゃない」
「解ってるよ」
「僕は今も医者で、未熟だけど……ちゃんとやってるつもりだ」
「晴さんはすごい立派なお医者さんだよ」

晴さんはこちらを向き直ると、今度は彼の方から私のことを強く抱きしめてくれた。
晴さんの体は冷たくて、温もりを求めて震えていた。
だからそのまま時間が永遠にも感じられるほど、抱きしめ続けた。
しばらくしてまたぽつりぽつりと晴さんは語り出す。

「僕は陽菜を失ったあと、陽菜のためにも頑張らなきゃと思いながらも、どこか時間が止まったように感じたまま生きていた。だけど、医者を続けてる限り、死は日常になる。人生なんてこんなものなんだって納得させようとしてた」
「やさぐれちゃうよね。色んな気持ちがぐちゃぐちゃになるよね。良くしようと思ったのにかえって悪くなる、裏腹だよね」
「やっぱり。小夏もそうなんだね。大切な人をなくしちゃったんだね」
「うん……」

晴さんは抱きしめた身体を一旦離しながら、私の目を見て言った。

「でも僕はそんなとき、bihukaに出会ったんだ」
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