キミのために一生分の恋を歌う -first stage-
7. 本当の私と一生の宝物
いつの間にか、夕陽は山の向こうへと消えていき日が暮れかけていた。
沢山のひまわりたちが風に揺れる音だけが少し寂しく響いて、私たちの心を撫でていた。

「そろそろ帰ろうか」と晴が言った。
「晴。私が居るから煙を気にしてお線香あげてないでしょう? 私は先に車まで行ってるから、最後に陽菜さんとゆっくりお話してきて」
「ありがとう。じゃあ少しだけ。でも駐車場に座るところあるから座ってて」
「大丈夫だよ」
「ゆっくり歩くんだよ」
「もう、心配性」

これからの晴はこれまで以上に心配性に拍車がかかりそうだと私は苦笑しながらその場をゆっくりと離れた。

それから、私は車に向かう前にお手洗いに寄った。
洗面台の鏡の前で、鏡に映った自分の顔を見た。
ブラウンの髪と瞳をした、私が嬉しそうに笑っていた。
この姿の私を晴は好きだと言ってくれた。

「でも知ってほしいな……」

晴は苦しくても、教えてくれた。
全てをさらけ出して、私を愛していると伝えてくれた。

だから私も、晴に知ってほしい。
私は今まで隠していた姿を晴に見せることにした。

まずは被っているウィッグを外す。そして、瞳の色を隠していたコンタクトレンズも外してカバンに入れる。
中でまとめていた髪はすべて解いた。すとんと腰にまで落ちる、私の本当の髪の毛。
ふいに抜けた1本の髪を手にしながら私は呟いた。

「怖いな、やっぱり……」

髪の毛を乗せた手が震えて、そのままゆらゆらと床へ落ちていく。
全身が震えていた。
鏡を見ると、真っ白になった顔色で緊張している自分が居る。

もし、受け入れて貰えなかったらどうしよう。
だとしても、私は晴に対してこれからもっとわがままになっていって、自分に嘘をつき続けることが許せなくなる日が必ず来る。
だから躊躇わない。本当の自分を愛して欲しいから。
私はこのままお手洗いから出て、駐車場近くのベンチに座った。
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