キミのために一生分の恋を歌う -first stage-
それから10分くらいして晴は戻ってきた。
私はベンチから立ち上がる。
予想通り、晴はかなりびっくりしていた。

「小夏……なのか?」
「うん……今まで黙っててごめんね。晴が私のことを好きだと言ってくれたから、私もこれからは本当の私でいたい」
「いいんだ。どんな小夏も僕は好きだから」

私の本当の髪色は全部真っ白だった。
腰まで伸びた白い髪が、風に乗り揺れていた。
そして本当の瞳の色は青色で。
今までの私の外見は全部嘘で、嘘というフィルターを通してでしか、晴と向き合うことができなかった。

「あのね、私、大切な家族がいて。その人のためにその人にまで届くように、それだけを願って歌ってきた。その人は海外で生まれた。私はねその人と同じ髪と瞳の色なんだ。それでね、髪の色も昔は茶色だったの。私は、その人のことが大好きだった」
「でもいつもその人のことを想って、小夏は泣いていたんだよね?」
「……うん。ある日、私と小春を置いて、突然居なくなっちゃったから。私は悲しくて受け入れられなくて髪の毛が全部抜けちゃってね。お医者さんから原因はストレスだって言われた。そこから、この白い髪しか生えてこなくなったんだ」
「確かに小夏のカルテには喘息以外に精神科へのコンサル記録が何回かあった。でも古すぎて記録がもう残ってなかった」
「10年以上前の話だから。このことを知ってる人は殆ど居ないと思う。だから喘息のせいだけじゃないの。私、こんな見た目だから、ずっとbihukaとして自分をさらけ出すのが怖かった。だけど、私は晴の前でもう嘘つきたくない。晴には私の本当の髪を撫でて欲しいし、私のそのままの瞳を見つめて欲しい。今話せるのはこのくらいだけど……どうか許してください」

私が深く頭を下げると、すぐに晴は頭を上げるように言って、優しく包み込むようにして手を握ってくれた。

ーーいつからだろう、一番大切で大好きだったはずのあの人のことより、晴の顔を思い浮かべることが増えたのは。
晴の声が、晴の優しさが、晴の全てが私を塗り替えていく。
それは残酷なくらい、悲しくて、愛おしくて。

「私も晴と同じなの……。いつ間にか晴のことばかり考えてて。晴が悲しいと私も悲しくて、心の中が晴でいっぱい。あのさ、この夏は本当に色んなことがあったよね」
「うん。すごく特別な夏になったよ」
「そしてこれからも夏は続いてくよ。最後まで。だから私……あの人のことよりも……晴を大事にしたい。誰にも渡したくない。晴のことが何よりも誰よりも……私の一番だから!」

晴はそのまま何も言わず抱きしめてくれた。
そして私の髪を撫でてくれた。
瞳の色が綺麗だよと言って、流れた涙を拭ってくれた。

「ありがとう、話してくれて」
「晴、愛してる」

私達は互いの気持ちを確かめ合うようにしてもう一度唇を重ねた。
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