傷心女子は極上ライフセーバーの蜜愛で甘くとろける
 凪の視線の先にはバシャバシャと飛沫をたてて泳ぐ男の子の姿があった。遊泳エリアのギリギリ。一見、遊んでいるように見えるけれど――

「誰か!ライフセーバーを呼んで!!人が溺れてる!!」

 そう叫ぶと、凪は勢いよく走り出した。波に足を取られ、もたつきながらもなんとか進む。その間に浮き輪の紐を手首にグルグルと巻き付けて、躊躇いなく凪は波間に飛び込んだ。
 
 これでも中学から大学まで水泳部だったのだ。高校の時は関東大会まであと一歩のところまで進んだこともあるし、泳ぎには自信がある。
 ただ、絡みつけた浮き輪が邪魔をしてなかなか思うように泳げない。もがく男の子に近づけないことにもどかしさを感じながら、それでも必死に波をかき分ける。

「大丈夫?!」

 なんとか男の子の元に辿り着き、浮き輪を渡そうとする。
 だがパニックに陥った男の子は浮き輪より先に凪にしがみついてきた。その力はかなり強く、助けるどころか浮き輪を持っていても一緒に沈みそうになる。

 ヤバい――!
 焦った時にはもう二人とも水の中にいた。浮き輪を頼りになんとか顔を外に出そうと懸命に首を伸ばす。もがく男の子を離さないように、彼の腕をギュッと掴みながら。

 だが一瞬水中から顔を出せたと思ったが、すぐにまた沈んでしまう。遊泳用の浮き輪は二人分の体重を支える浮力はなく、掴んでいる部分が折れ曲がって今にも共に沈んでしまいそうだ。
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