傷心女子は極上ライフセーバーの蜜愛で甘くとろける
 チューブの先についている黒い紐は彼がたすき掛けにしている。

「力を抜いて、そのまま仰向けで浮かんでいて」

 艶のある声。なぜか背筋がゾクゾクした。
 バシャン、と水を切る音が背後から聞こえて、凪の体がスーッと滑るように海の上を移動する。
 水の抵抗を微塵も感じない。それだけで彼の泳力の高さを窺い知れる。

 体をなるべく動かさないように、凪はチラリと前の様子を盗み見た。
 小麦色に焼けた逞しい二の腕が、両断するように交互に波をかき分けている。その美しいフォームに自然と目が奪われた。

 ほどなくして彼は身を起こした。どうやら浅瀬に着いたらしい。凪も底に足をつけ、振り返ると彼がこちらへ歩み寄ってきた。

 褐色の肌の上に乗る水滴に太陽の光が反射して、彼の体がキラキラと輝いて見える。布面積の少ない競泳パンツを身につけた彼の体はどこもかしこも引き締まっていて、目のやり場に困る。

 それに改めて見ると顔も驚くほど整っていた。濡れた前髪は後ろに撫でつけられていて、滑らかな肌と端正な美貌があらわになっている。
 切れ長の目から繰り出される眼差しは力強い。すっと通った鼻梁とシャープな輪郭は、黒豹を彷彿とさせた。
 思わずジッと眺めすぎてしまった。凪は慌てて目を逸らす。
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