傷心女子は極上ライフセーバーの蜜愛で甘くとろける
 レストランの入り口に着くと、前に立っていたスタッフが恭しく礼をした。
 
「ごめん、どこでもいいんだけど席を二人分用意してくれるか?」

 彼がやけに気安くそう言うと、一分も経たずして席へと案内された。窓際の席で、窓の向こうには昼間に泳いだビーチが見える。

 状況をよく理解できないまま、成り行きで彼――漣とディナーをすることになってしまった。
 
 凪はスタッフに自分の予約を取り消してもらうように頼んでから、漣をジッと見据えた。

「あの、美坂さん……」
「漣でいいって。それに、そんなにかしこまるなよ」
「いや、でも私より年上ですよね?」
「凪って何歳?」
「二十八ですけど……」
「俺は三十だから誤差の範囲だな。だからほら」

 色気たっぷりの流し目を向けられ、凪は押し黙る。
 ほぼ初対面なのに距離が近すぎでは……?でもこのままでは話が進まない気もする。

(ただ名前で呼ぶだけでしょ。別にそんなの大したことないし……)

 ただの男友達だって名前で呼ぶことはある。だから特別な意味なんてない。
 なのにどうしてこうも緊張するんだろう。

「あの、漣……」
「どうした、凪?」
「いや、あの……」

 爽やかな笑みを向けられ、しどろもどろになってしまう。じわじわと顔に熱が広がっていくのを感じる。
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