傷心女子は極上ライフセーバーの蜜愛で甘くとろける
 続く言葉は漣の口内に飲み込まれた。
 唇に触れた熱に、凪は目を見開く。
 押し当てられた漣の唇は、凪の下唇を柔く食むとすぐに離れていった。

「な、んで……」

 どうしてキスしたの?どうして諦めてくれないの?どうして、どうして――
 思考が複雑に絡まり、糸玉のようになって回路を塞いでしまう。

 漣は不遜な笑みを浮かべて、硬直する凪の顎を指先で持ち上げた。

「俺は自分の目で見たものしか信じない。元カレがなんて言ってようが、そんなのどうだっていい。俺が凪のことを何も知らないって言うなら、凪が全部俺に教えてくれよ」

 漣の親指が凪の唇をなぞる。唇を滑る固い指先は、先ほど触れた彼の唇の柔らかさを如実に思い起こさせた。
 心臓は張り裂けそうなほど拍動している。

「俺が全部忘れさせてやる。何もかも、全部」
 
 ――だから俺を選べよ。

 鼓膜に注ぎ込まれた言葉は、まるで甘い媚薬のように入り込んで凪の脳を麻痺させた。
 ダメだと思っていたのに抗えない。

(忘れたい、忘れさせて……)

 凪はそっと目を閉じた。明日するであろう後悔から目を背けるようにして。
 今はもう何も考えないで、ただ都合の良い夢だけを見たかった。

 漣の腰に腕を回すと、甘い甘いキスがまた降ってきた。
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