ショパンの指先
視線を逸らし続ける私の顎を、洵は長い指先でくいっと持ち上げた。
「俺を見て」
なんて甘い響きなのだろう。ずっと会いたかった洵が、今目の前にいる。手を伸ばせば、容易に触れられる場所に、洵がいる。顔を上げて洵と見詰め合ったら、泣いてしまいそうで、怖くて直視できなかった。
「会いたかった」
絞り出すような切ない音を乗せた声に、つい視線を上げてしまった。洵と目が合う。すると次の瞬間には、洵にキスされていた。
唇が覆い被さる。痺れるような熱いキスは、一晩限りの情熱的な夜を彷彿させた。洵の身体が迫ってきて、私の上半身はどんどん仰け反り、カウンターの上に仰向けになった。キスの嵐は止まらない。お互いの吐息が熱く湿り、下半身がじんじんする。このままここで、繋がりたい。欲求が抑えきれなくなる前に、私は洵の唇を手の平で押さえた。
「待って、どうしてここに洵がいるの? 優馬はどこ?」
「優馬は帰ったよ。俺が杏樹を呼んでくれって頼んだ。優馬は杏樹を驚かせたかったみたいで、嘘をついたんだ。驚いた?」
「驚いたわよ、とても。今でも信じられないくらい」
洵は満足気に笑った。洵の醸し出す雰囲気は、大人の色気に加えて、優しさも上乗せされたらしい。丸く包み込むような優しさは、とても居心地がよく、頼りがいのある男に成長したのだなと思った。
「なあ、杏樹。もしかして怒っている?」
洵は心配そうに顔を傾けて、私の顔を覗きこむようにして言った。
「どうしてそう思うの?」
「なんだか浮かない顔している」
「むしろ怒ってないとでも思っているの? 何も言わずに消えたくせに」
「ごめん……でも俺は…」
「知っている。ショパンコンクールの推薦オーディションに合格したのでしょう。日本代表だってね、凄いわ。おめでとう」
「俺を見て」
なんて甘い響きなのだろう。ずっと会いたかった洵が、今目の前にいる。手を伸ばせば、容易に触れられる場所に、洵がいる。顔を上げて洵と見詰め合ったら、泣いてしまいそうで、怖くて直視できなかった。
「会いたかった」
絞り出すような切ない音を乗せた声に、つい視線を上げてしまった。洵と目が合う。すると次の瞬間には、洵にキスされていた。
唇が覆い被さる。痺れるような熱いキスは、一晩限りの情熱的な夜を彷彿させた。洵の身体が迫ってきて、私の上半身はどんどん仰け反り、カウンターの上に仰向けになった。キスの嵐は止まらない。お互いの吐息が熱く湿り、下半身がじんじんする。このままここで、繋がりたい。欲求が抑えきれなくなる前に、私は洵の唇を手の平で押さえた。
「待って、どうしてここに洵がいるの? 優馬はどこ?」
「優馬は帰ったよ。俺が杏樹を呼んでくれって頼んだ。優馬は杏樹を驚かせたかったみたいで、嘘をついたんだ。驚いた?」
「驚いたわよ、とても。今でも信じられないくらい」
洵は満足気に笑った。洵の醸し出す雰囲気は、大人の色気に加えて、優しさも上乗せされたらしい。丸く包み込むような優しさは、とても居心地がよく、頼りがいのある男に成長したのだなと思った。
「なあ、杏樹。もしかして怒っている?」
洵は心配そうに顔を傾けて、私の顔を覗きこむようにして言った。
「どうしてそう思うの?」
「なんだか浮かない顔している」
「むしろ怒ってないとでも思っているの? 何も言わずに消えたくせに」
「ごめん……でも俺は…」
「知っている。ショパンコンクールの推薦オーディションに合格したのでしょう。日本代表だってね、凄いわ。おめでとう」