ショパンの指先
今までとは全く違った環境だった。正社員と同じように、朝から夜遅くまで働き通した。
甘えは許されないし、こんなかんじでいいだろうという適当さは厳しく正された。ナプキンの置き方、向きなど、客として来ていた頃は気付かなかった様々な取り決めがあった。また、声の出し方や歩き方や所作なども指導された。中でも一番難しかったのが、笑顔の作り方だった。面白いことがないのに始終笑顔でいるなんて、私にはできなかった。
私を直接指導してくれていたのは、ベテランのホールスタッフで、優馬は直接細々としたことを教えることはなかったのだけれど、この笑顔という点に関しては、優馬は本当に煩かった。
あまりにも怒られるので、私は辛抱堪らなくなって、「そうね、私には接客業は向いてないのよ。厨房で皿洗いでも何でもするわ」と言うと、「あんたの取り柄は顔くらいなのだから、最大限に使わなくてどうするの」と言われ裏方の仕事はさせてもらえなかった。
顔くらいしか取り柄がないと言われて、さすがに頭にきたけれど、言い返せる立場でもなかったし、何より自分でも他の取り柄が思い当らなかった。
女性にとって顔が取り柄というのはとても誇らしいことかもしれない。褒め言葉として受け入れる人もいるかもしれない。けれど私は、見た目だけが取り柄の女には絶対になりたくなかった。
容貌なんていつか衰える。衰えた時に、何も残らない人間にはなりたくなかった。とても屈辱的で悔しい言葉だった。
そして優馬も、私にとっては嬉しくもなんともない言葉だと分かっているから、あえて言ったのだ。優馬は私に一切の妥協を許さなかった。
綺麗だね、なんて聞き飽きるほど昔から言われてきた。だからこそ、顔や身体を武器にして今まで生きてきた。でもそれを武器にして男に媚びを売るのが嫌だから、ニコニコなんて馬鹿らしくてできなかった。
甘えは許されないし、こんなかんじでいいだろうという適当さは厳しく正された。ナプキンの置き方、向きなど、客として来ていた頃は気付かなかった様々な取り決めがあった。また、声の出し方や歩き方や所作なども指導された。中でも一番難しかったのが、笑顔の作り方だった。面白いことがないのに始終笑顔でいるなんて、私にはできなかった。
私を直接指導してくれていたのは、ベテランのホールスタッフで、優馬は直接細々としたことを教えることはなかったのだけれど、この笑顔という点に関しては、優馬は本当に煩かった。
あまりにも怒られるので、私は辛抱堪らなくなって、「そうね、私には接客業は向いてないのよ。厨房で皿洗いでも何でもするわ」と言うと、「あんたの取り柄は顔くらいなのだから、最大限に使わなくてどうするの」と言われ裏方の仕事はさせてもらえなかった。
顔くらいしか取り柄がないと言われて、さすがに頭にきたけれど、言い返せる立場でもなかったし、何より自分でも他の取り柄が思い当らなかった。
女性にとって顔が取り柄というのはとても誇らしいことかもしれない。褒め言葉として受け入れる人もいるかもしれない。けれど私は、見た目だけが取り柄の女には絶対になりたくなかった。
容貌なんていつか衰える。衰えた時に、何も残らない人間にはなりたくなかった。とても屈辱的で悔しい言葉だった。
そして優馬も、私にとっては嬉しくもなんともない言葉だと分かっているから、あえて言ったのだ。優馬は私に一切の妥協を許さなかった。
綺麗だね、なんて聞き飽きるほど昔から言われてきた。だからこそ、顔や身体を武器にして今まで生きてきた。でもそれを武器にして男に媚びを売るのが嫌だから、ニコニコなんて馬鹿らしくてできなかった。