ショパンの指先
ある日のことだった。

朝から晩まで仕事をして、残った時間や休みの日に絵を描く日々が続き、私の身体は限界を超えていたようで突然体調を崩した。

その日は朝から気分が悪く、熱が出る前の不自然な寒さと倦怠感に包まれていた。それでも、遅刻は絶対にできないし、休んでしまったら仕事を辞めなければいけなくなるので無理して出勤した。顔色の悪さを優馬から指摘されても、体調が悪いとは言えなかった。

フラフラながらもランチはなんとかこなせた。休む暇もなく身体を動かしているので、逆に自分の体調の悪さに気遣っている場合ではなく、その緊張感が私を突き動かしてくれた。

しかし、遅めの昼食を食べ小休憩をしていると、熱がどんどん上がってきた。吐く息が熱いのが自分でも分かる。顔は火照り、節々が痛い。これは非常にまずいと思ったけれど、休むわけにはいかなかった。優馬や他のスタッフにも気付かれたくなかった。体調管理ができていない私が全て悪いのだから、迷惑は掛けられない。

明日は幸運にも定休日だ。今日さえ乗り切ればなんとかなる。私は立ち上がるのもきつかったが、無理やり自分の身体を鼓舞して起き上がった。

ディナーの準備をしている時だった。

「杏樹、ちょっと来なさい」

 優馬に呼び出され、私は従業員の休憩室へとよろめきながら歩いて向かった。休憩室に着くなり、優馬は腕を組み険しい表情で私を見下ろした。

「家に帰りなさい」
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