ショパンの指先
ピーク時には次々と皿が溜まっていき、食器を下げる場所がすぐに埋まってしまうので休む暇などなかった。しかも、慣れない仕事の上に頭がボーっとしているので、うっかり気を抜くと洗剤で滑りやすくなっている皿は、ツルリと私の手から離れて床に豪快な音を立てて壊れるのだ。
「杏樹! 何やっているの!」
優馬の怒号が厨房に響く。
私は「すみません」と謝りながら、割れた皿を片付けた。見かねたスタッフが手伝おうとすると、優馬は「全部杏樹にやらせなさい」と言った。
早く片付けなければ、すぐさま食器を下げる場所がいっぱいになってしまうので、私は割れた皿を素手で片付けていた。
「痛っ」
小さな破片が人差し指に刺さり、ぷっくりと丸い血が浮き出てきた。
思わず舌打ちしてしまう。まったくこの忙しい時に。自分の鈍臭さが心底嫌になる。絆創膏を貼って、沁みる水に耐えて皿洗いを続行する。
「店長、杏樹さんを休ませてあげた方がいいのではないですか?」
スタッフの一人が優馬に言っている言葉が聞こえた。
なに余計なこと言っているの! 私は抗議しようと顔を上げた。
「いいのよ。あの子がそうしたいって言っているのだから。杏樹がぶっ倒れても無視して仕事続けなさいよ。倒れる方が悪いのよ」
「いや、それはさすがに……」
「とにかく杏樹のことは放っておきなさい。さっ仕事に戻るわよ」
優馬の言葉が嬉しくて、私は自然と顔がニヤついてしまった。その様子を見ていた周りのスタッフ達からは、私の姿が不気味に映ったかもしれない。
優馬は私のことをよく分かっている。ぶっ倒れても無視しろなんて、本当最高だ。やってやるわよ、最後まで。ぶっ倒れるまで働いてやる。
「杏樹! 何やっているの!」
優馬の怒号が厨房に響く。
私は「すみません」と謝りながら、割れた皿を片付けた。見かねたスタッフが手伝おうとすると、優馬は「全部杏樹にやらせなさい」と言った。
早く片付けなければ、すぐさま食器を下げる場所がいっぱいになってしまうので、私は割れた皿を素手で片付けていた。
「痛っ」
小さな破片が人差し指に刺さり、ぷっくりと丸い血が浮き出てきた。
思わず舌打ちしてしまう。まったくこの忙しい時に。自分の鈍臭さが心底嫌になる。絆創膏を貼って、沁みる水に耐えて皿洗いを続行する。
「店長、杏樹さんを休ませてあげた方がいいのではないですか?」
スタッフの一人が優馬に言っている言葉が聞こえた。
なに余計なこと言っているの! 私は抗議しようと顔を上げた。
「いいのよ。あの子がそうしたいって言っているのだから。杏樹がぶっ倒れても無視して仕事続けなさいよ。倒れる方が悪いのよ」
「いや、それはさすがに……」
「とにかく杏樹のことは放っておきなさい。さっ仕事に戻るわよ」
優馬の言葉が嬉しくて、私は自然と顔がニヤついてしまった。その様子を見ていた周りのスタッフ達からは、私の姿が不気味に映ったかもしれない。
優馬は私のことをよく分かっている。ぶっ倒れても無視しろなんて、本当最高だ。やってやるわよ、最後まで。ぶっ倒れるまで働いてやる。