ショパンの指先
洵はどこまで成長するのだろうと思うくらい、演奏に磨きがかかっていた。演奏技術もさることながら、観客を楽しませる見せ方も学んだようだ。手を高く上げたり、鍵盤に顔を近付けたり、身体全体で革命を表現している。
洵が魅せる世界観に観客たちは酔いしれる。私も足の震えがいつの間にか治まり、洵の演奏に全ての五感を研ぎ澄まし聴き入っていた。
演奏が終わると、再び割れんばかりの拍手が巻き起こった。フィナーレのような盛り上がりに、洵自身も驚いているようだった。
私も両手が痛くなるくらい強く手を叩いた。おめでとう、おめでとう洵。夢を叶えたのね。とてもかっこ良かった。届かない言葉を胸の中で何度も伝える。すると、優馬が目を赤くして興奮した様子で私の方に振り返った。そして私の顔を見た優馬は、顔を崩して目頭を押さえた。
「もうやめてよ。あんたの涙見たら私までウルっときちゃうじゃない」
……涙? 言われて初めて自分が泣いていたことに気が付いた。頬が濡れている。こんなに自然に涙を流していた自分に驚いた。
優馬にハンカチを渡されたものの、優馬の言葉の矛盾を感じていた私は素直にありがとうと言えなかった。優馬は私の顔を見る前から目が赤かったくせに、しれっと人のせいにしたのだ。ハンカチを私に渡した優馬はティッシュで豪快に鼻を噛んでいた。
その姿を見ていたら、まあいいかという気になってハンカチで涙を拭った。
洵はそれから、貴婦人のノクターン、幻想即興曲、華麗なる大円舞曲を立て続けに弾いた。
今回のコンサートは、洵のショパンコンクール入賞を記念してオールショパンで構成されている。ショパンコンクールが終わった後、洵はあえてショパンを封印して様々な作曲家に挑戦していた。だから、公の場で洵がショパンを弾くのは一年ぶりだ。聞き慣れたショパンの音色は、とても心地が良かった。
観客が洵のピアノの音色にうっとりと聞き惚れている。洵の横顔はとても綺麗で、醸し出される雰囲気は色っぽく、みんな洵の虜になってしまったに違いない。厄介な男を好きになってしまったものだと心の内で自嘲した。
どんなに忘れたくても、きっと洵のピアノを聴いてしまったら、私はまた洵に恋をする。
何度も何度も恋をして、どんどん深く好きになっていく。
洵が魅せる世界観に観客たちは酔いしれる。私も足の震えがいつの間にか治まり、洵の演奏に全ての五感を研ぎ澄まし聴き入っていた。
演奏が終わると、再び割れんばかりの拍手が巻き起こった。フィナーレのような盛り上がりに、洵自身も驚いているようだった。
私も両手が痛くなるくらい強く手を叩いた。おめでとう、おめでとう洵。夢を叶えたのね。とてもかっこ良かった。届かない言葉を胸の中で何度も伝える。すると、優馬が目を赤くして興奮した様子で私の方に振り返った。そして私の顔を見た優馬は、顔を崩して目頭を押さえた。
「もうやめてよ。あんたの涙見たら私までウルっときちゃうじゃない」
……涙? 言われて初めて自分が泣いていたことに気が付いた。頬が濡れている。こんなに自然に涙を流していた自分に驚いた。
優馬にハンカチを渡されたものの、優馬の言葉の矛盾を感じていた私は素直にありがとうと言えなかった。優馬は私の顔を見る前から目が赤かったくせに、しれっと人のせいにしたのだ。ハンカチを私に渡した優馬はティッシュで豪快に鼻を噛んでいた。
その姿を見ていたら、まあいいかという気になってハンカチで涙を拭った。
洵はそれから、貴婦人のノクターン、幻想即興曲、華麗なる大円舞曲を立て続けに弾いた。
今回のコンサートは、洵のショパンコンクール入賞を記念してオールショパンで構成されている。ショパンコンクールが終わった後、洵はあえてショパンを封印して様々な作曲家に挑戦していた。だから、公の場で洵がショパンを弾くのは一年ぶりだ。聞き慣れたショパンの音色は、とても心地が良かった。
観客が洵のピアノの音色にうっとりと聞き惚れている。洵の横顔はとても綺麗で、醸し出される雰囲気は色っぽく、みんな洵の虜になってしまったに違いない。厄介な男を好きになってしまったものだと心の内で自嘲した。
どんなに忘れたくても、きっと洵のピアノを聴いてしまったら、私はまた洵に恋をする。
何度も何度も恋をして、どんどん深く好きになっていく。